五分ほど走ると『御影会館』の看板が見えてきた。俺は穂高を睨み、憑いてくんなと威嚇する。
穂高は「はぁーい」とだるそうに言いながら、ふわっと透明になり視界から消えた。
俺はまだ誰もいない会場に足を踏み入れた。靴音だけが、やけに大きく響く。
祭壇に近づき、棺の小窓にそっと手をかける。
――見慣れているはずだった。
穂高の顔なんて、何度も見てきた。眠っている顔も、うたた寝している顔も。何度も何度も……
けれど、小窓を開けた瞬間視界が滲んだ。頬を伝う涙が、止まらんくなった。
それは、ただ眠っとる顔やなくて……魂が抜けた後の、ただの器で。
血の気の失せた頬、動かない瞼、二度と開かない目。
命が終わったということが、こんなにも一目で分かるものやとは思わんかった。
「……起きぃや……穂高……」
分かっとる。そんなことを言うても、もう起きひんことは。分かっとるのに、口が勝手に動いた。
きっとそこらへんに幽霊の穂高もいるんやろう。
けれど、生身の穂高はもういない。その事実を、初めて受け入れるしかなかった。
受付の時間まで、俺は事務所で時間をつぶした。
相変わらず穂高はふらふらしていて、気まぐれに俺の傍にいて、「会場の裏舞台かっけー」とか、
「え、宗派によって楽器って違うの?銅鑼とかあんねや」など、テンション高く話しかけてくる。
耐えかねた俺は一旦式場の裏口に出ることにした。
「お前さぁ!話しかけんなっつったやろ?うっかり返事してまいそうになったやないか!
ほんで楽器やなくて、ああいうのは鳴り物っつーんだよ!覚えとけバーカ!」
「しーちゃん口悪っ!ってか……」
「あぁ?」
急に穂高が外を指さした。
「自転車……ヤバくない?」
穂高の指先を見ると、式場の駐輪場が自転車で溢れかえっていた。
「……いや、ほんまな」
思わず突っ込んでしまった。
穂高は自転車の鑑札シールをまじまじと覗き込む。
ロビーをみると、そこは参列者でごった返していた。
「俺のためにこんなよーさん来てくれてんの?」
「今日はお前の式しかないから、全部お前の参列者やな」
「やば!すご!俺って人気者」
穂高は嬉しそうに笑う。
――昔からそうだった。
葬儀屋の息子という看板。色白で真っ黒なおかっぱ頭。
おまけに同年代よりずっと小さかった俺は、「座敷童」と呼ばれていた。高学年になると、疫病神や死神に変わった。
けれど、俺とは対照的に穂高はクラスの中心におって、いつも人気者やった。
――そんな幼い頃のことを、ふと思い出す。
「……穂高、ちょっとおとんに知らせてくるわ」
声が震えそうになるのを、なんとか抑える。
「俺今から式場入るから、お前はマジで話しかけんなよ。わかったな?」
目の奥が熱くなって、涙がこぼれそうになった。それを堪えて、俺は自動ドアに向かって歩き出す。
「泣くなよ、しずる!」
背後から穂高の声が聞こえたけど、振り返らずに事務所へ向かった。



