目を覚ますと、ベッドの脇に穂高がちょこんと座っとった。
「おはよ、しーちゃん」
いつもと変わらない笑顔。
――夢であってほしかった。
やのに、夢やなかったことに、どこかでほっとしとる自分もおって、そんな自分に少し戸惑う。
「……おはよ」
掠れた声で返すと、穂高は満足そうに笑った。
洗面所で顔を洗ってリビングへ行くと、おとんがすでに黒いスーツ姿でネクタイを締めとった。
「……早いな」
「まぁな」
鏡越しにネクタイを整えながら、おとんが短く笑う。
「穂高くんには、お前がお世話になったからな……告別式、ちゃんとしたりたいやろ?念入りに準備しとかんと」
その一言に、胸の奥がぎゅっと詰まった。
「しずる」
「ん?」
「今日、お前は手伝わんでええわ」
「え、なんで……」
思わず聞き返す。
「ええねん」
おとんが静かに遮った。
「穂高くんと過ごせるんは今日が最後や」
ネクタイを締め終えたおとんが、まっすぐ俺を見る。
「後悔せんように、ちゃんと送ったれ」
言葉が、出んかった。
隣で黙って聞いていた穂高が目を見開いているのがわかった。
ふざけることも、茶化すこともなく。ただ静かに、おとんを見つめとる。
「……うん。わかった」
ようやくそれだけ返すと、親父は「よし」と頷いて、仕事鞄を手にした。
俺は部屋に戻ると、黒いスーツではなく制服に袖を通した。
終業式のあとすぐにクリーニングに出して、昨日戻ってきたばかりの制服。しっかり糊が利いていて、肌に馴染まない。
袖を通すと、まだ新品みたいな張りが腕を突っぱねてくる。
「あ……」
その制服を見て、穂高が少しだけ眉を下げた。
「ごめんな」
「なにが?」
「クリーニング、無駄にしてもた」
「……そんなん、ええに決まっとるやろ」
俺がそう言うと、穂高は「そっか」と苦く笑った。
「そういやさ」
ぱっと表情を変えて、穂高は俺の横に並ぶ。
「今日、誰来てくれるんやろな。昨日は二年二組のやつ、あんまおらんかったやん?
そのかわり一年の時のやつが結構来とってビックリしたわ」
「……」
「中学のサッカー部の顧問来とったやん?担任も来るかな?来そうやんな?」
「せやな」
「委員長、絶対泣くやろなぁ」
穂高がけらけら笑う。
「……知らん」
「いや、絶対泣くって。あいつ涙もろいし」
穂高が俺を笑わせようとしているのがわかる。でも、どうしても笑うことができなかった。



