「あの子、迷子かな……」
あの日のことだけは、鮮明に覚えている。
お姉ちゃんが見つめる先には、一人で突っ立っている男の子の姿があった。
両親を探しているみたいだった。
優しいお姉ちゃんは、どうしようかと考えていたみたい。
私は、それがなんだか悔しかった。
せっかく、お姉ちゃんを独り占めできていたのに。
他人のことを考えるなんて、って。
「ふーん。……ねえ、お姉ちゃん。おもちゃ屋さん行こうよ」
早くあの場から離れたくて、私はそう言った。
「そうだね」
あの男の子は、横断歩道を渡っている。
勝った、と思った。
おもちゃ屋さんに向かおうとしていた時、猛スピードのトラックが、こちらに向かってきていることに、お姉ちゃんは気づいた。
――そして、男の子が気づいていないことも。
「危ない――っ」
お姉ちゃんはそう叫んで、走り出してしまう。
「お姉ちゃん……」
私は、お姉ちゃんを追いかけた。
でも、私はまだ子どもだった。
すぐに転んでしまう。
立ち上がった時、トラックは、私の横を通り過ぎた。
「お姉ちゃん――っ!」
お姉ちゃんと男の子は、道路に倒れていた。
「きゅ、救急車!早く、救急車を!」
周りの人の声が、聞こえなくなった。
私はただ、お姉ちゃんを見ていた。
「お姉ちゃん……。お姉ちゃん!お姉ちゃん!」
――お姉ちゃんは、病院で息を引き取った。



