注文した料理は全て、私のお腹の中に消えた。
イカ刺しは光を当てたように、てらてらと輝いていて、口に入れるとコリコリとした食感にとろけるような甘さ。
せんべい汁は生魚の脂をスッキリさせてくれる、抜群の組み合わせだ。
貝焼きは貝殻の上にウニやイカ、ホタテを乗せて焼いたもので、贅沢この上ない料理だった。
緑茶割りの後は、お酒でお腹をいっぱいにしないために、アイスウーロン茶にした。
まだまだお腹のスペースは空いている。
周りのテーブルの上の料理を観察しつつ、何を頼もうかとメニューを見ていると、私の視界の端に黒いものが映った。
え……この黒いものは……
顔を上げると、無表情な神無月さんが立っていた。
「え! どうして……」
「部長から、電話がありまして」
「はぁ……」
「おひとりになってしまったということで、参りました」
やっぱりAI!
オフィスを出ても、この調子なのか……
「すみません、わざわざ。でも、私ひとりでも楽しめるほうなので……」
「緑茶割りひとつ。いちご煮揚げと長芋の天ぷら」
慣れた調子で、店員さんに注文をする神無月さんを、私はぼーっと見ていた。
っていうか、何を話していいのかわからない。
さっきまで、ひとりメシを堪能していたのに、急に緊張感を覚えた。
「……八戸の郷土料理楽しめました?」
「は、はい。サバを生のお刺身で食べられるなんて生まれて初めてで、感動しました」
「……」
うーむ。
私が投げたボールは、グローブには収まらずに暴投したみたいだ。
でも、ここで諦める私ではない。
神無月さんの前に、緑茶割りが出てきた。
無言のまま、私の前に差し出す。
これは、乾杯ということでしょうか?
「乾杯―。ありがとうございます」
ほぼ、空になったグラスを合わせた。
神無月さんは、一気に半分ほど飲んだ。
え、酒豪だったりする?
「飲みっぷりがいいですね。お酒お好きなんですか?」
「……いえ、それほどでも」
今回はかろうじて、グローブには収まったみたいだけど、だいぶ定位置からはズレたな。
「神無月さんは、オシャレですよね。スタイルがいいから、着こなしてらっしゃる。私なんて、歳食った就活生みたいで恥ずかしいです」
「お若く見えるのは、良いことだと思います」
「は? あ、ありがとうございます」
ストライク!
キャッチボールできたよ!
え、しかも褒めてくれてる?
神無月さんが注文した、いちご煮揚げと長芋の天ぷらが出てきた。
油の良い香りがする。
でも、私が箸をつけていいのかわからなかった。
これは、神無月さんが注文した品だから。
「どうぞ、召し上がってください。私は夕飯をいただいてきたので」
「え! そうなんですか。では、遠慮なく……」
いちご煮はウニとアワビを使った汁物だということは調べておいた。
それを春巻きの皮に巻いて揚げてある。
パリッという皮の歯切れの良さに、ウニの濃厚さにアワビの少しコリっとした食感が、口の中に広がった。
つなぎにしているのは何だろう?
「美味しい! ずっと生の海鮮をいただいていたので、ここで揚げ物が来るのはサイコーですね」
「……お気に召したなら良かったです」
相変わらず、無表情だけど、一応会話は成り立っている。
さっきまでの、緊張感が解け始めた。
「何かお飲みになりますか?」
「アイスウーロン茶で」
まだ大して時間が経っていないのに、すでに神無月さんの緑茶割りは空になっていた。
酒豪ではないって言うけど、このペースで飲めるって……
「……佐山さんは東京の方ですか?」
「いえ、私は埼玉県出身です。大学で東京に来てそこからずっと東京で一人暮らしをしています」
「……」
なんとなくパターンがわかってきた。
神無月さんは、自分のことはこちらから質問しない限り、自ら話すことはない。
でも、私が投げれば、答えてはくれる。
「神無月さん、私たちここで1on1しましょう!」
「は?」
私は出てきたアイスウーロン茶を高く掲げた。
イカ刺しは光を当てたように、てらてらと輝いていて、口に入れるとコリコリとした食感にとろけるような甘さ。
せんべい汁は生魚の脂をスッキリさせてくれる、抜群の組み合わせだ。
貝焼きは貝殻の上にウニやイカ、ホタテを乗せて焼いたもので、贅沢この上ない料理だった。
緑茶割りの後は、お酒でお腹をいっぱいにしないために、アイスウーロン茶にした。
まだまだお腹のスペースは空いている。
周りのテーブルの上の料理を観察しつつ、何を頼もうかとメニューを見ていると、私の視界の端に黒いものが映った。
え……この黒いものは……
顔を上げると、無表情な神無月さんが立っていた。
「え! どうして……」
「部長から、電話がありまして」
「はぁ……」
「おひとりになってしまったということで、参りました」
やっぱりAI!
オフィスを出ても、この調子なのか……
「すみません、わざわざ。でも、私ひとりでも楽しめるほうなので……」
「緑茶割りひとつ。いちご煮揚げと長芋の天ぷら」
慣れた調子で、店員さんに注文をする神無月さんを、私はぼーっと見ていた。
っていうか、何を話していいのかわからない。
さっきまで、ひとりメシを堪能していたのに、急に緊張感を覚えた。
「……八戸の郷土料理楽しめました?」
「は、はい。サバを生のお刺身で食べられるなんて生まれて初めてで、感動しました」
「……」
うーむ。
私が投げたボールは、グローブには収まらずに暴投したみたいだ。
でも、ここで諦める私ではない。
神無月さんの前に、緑茶割りが出てきた。
無言のまま、私の前に差し出す。
これは、乾杯ということでしょうか?
「乾杯―。ありがとうございます」
ほぼ、空になったグラスを合わせた。
神無月さんは、一気に半分ほど飲んだ。
え、酒豪だったりする?
「飲みっぷりがいいですね。お酒お好きなんですか?」
「……いえ、それほどでも」
今回はかろうじて、グローブには収まったみたいだけど、だいぶ定位置からはズレたな。
「神無月さんは、オシャレですよね。スタイルがいいから、着こなしてらっしゃる。私なんて、歳食った就活生みたいで恥ずかしいです」
「お若く見えるのは、良いことだと思います」
「は? あ、ありがとうございます」
ストライク!
キャッチボールできたよ!
え、しかも褒めてくれてる?
神無月さんが注文した、いちご煮揚げと長芋の天ぷらが出てきた。
油の良い香りがする。
でも、私が箸をつけていいのかわからなかった。
これは、神無月さんが注文した品だから。
「どうぞ、召し上がってください。私は夕飯をいただいてきたので」
「え! そうなんですか。では、遠慮なく……」
いちご煮はウニとアワビを使った汁物だということは調べておいた。
それを春巻きの皮に巻いて揚げてある。
パリッという皮の歯切れの良さに、ウニの濃厚さにアワビの少しコリっとした食感が、口の中に広がった。
つなぎにしているのは何だろう?
「美味しい! ずっと生の海鮮をいただいていたので、ここで揚げ物が来るのはサイコーですね」
「……お気に召したなら良かったです」
相変わらず、無表情だけど、一応会話は成り立っている。
さっきまでの、緊張感が解け始めた。
「何かお飲みになりますか?」
「アイスウーロン茶で」
まだ大して時間が経っていないのに、すでに神無月さんの緑茶割りは空になっていた。
酒豪ではないって言うけど、このペースで飲めるって……
「……佐山さんは東京の方ですか?」
「いえ、私は埼玉県出身です。大学で東京に来てそこからずっと東京で一人暮らしをしています」
「……」
なんとなくパターンがわかってきた。
神無月さんは、自分のことはこちらから質問しない限り、自ら話すことはない。
でも、私が投げれば、答えてはくれる。
「神無月さん、私たちここで1on1しましょう!」
「は?」
私は出てきたアイスウーロン茶を高く掲げた。



