部長の舟木さんには、業務の内容や委託さんをどう選んでいるかなど、ウチの会社との繋がりも含めてかなり深い話をしていただいた。
藤木さんや戸倉さんからも聞いていない話も多く、大変勉強になった。
終始、穏やかで少し訛りながらお話しする舟木さんは、良い上司なんだろうなーと思いながら聞いていた。
「今夜は軽く歓迎会を開きますよ」
「いえ、そんなお気遣いいただかなくても」
「いえいえ、期待されるほど大層なことはできませんが、ご当地グルメなどどうですか?」
「ホントですか! 食べるのが好きなので嬉しいです。ありがとうございます」
若干、食い気味に返事をしてしまった。
だってここは遠慮するよりも、気持ちよく受け取らせていただくべきだし。
神無月さんも来るのかな?
その後、私は業務委託さんとの1on1に入った。
本日は女性二名。
どちらも、年齢は私よりも上だが子育てがひと段落して、この仕事を見つけられて恵まれていると何度もおっしゃっていた。
また、業務の効率の良い方法を模索していると、幾つか検討している案を見せてくれたりもした。
私は、その前向きな姿勢に素直に感銘を受けていた。
正直、依頼された通りに業務をこなすことが、委託さんの仕事だと思っていた。
だから、自分たちで創意工夫をしているとは想像もしていなかった。
一人、30分の予定が45分ぐらいまで長引いたりもしたが、私にとっては非常に実りのある時間だった。
「みなさん、自分事として業務を捉えられていて、刺激をもらいました」
席に戻ると、神無月さんにそう話しかけていた。
「……そうですか」
ああ、AIだったことを忘れていた。
私は、1on1での高揚感のまま、共感してもらえると思っていたのが間違いだった。
そのまま、チェックしなければいけないメールの作業に戻った。
傾聴力:丁
共感力:丁
フリートーク力:丁
いつの間にか、私の頭の中では神無月さんに対する成績表が出来上がっていた。
でもね、どこかでまだ私は期待しているんですけどね。
隣で背筋を伸ばして、キーボードを叩いている神無月さんに無言の念を送っていた。
🔸🔸🔸
私の歓迎会は、『みろく横丁』という場所で行われた。
提灯が吊るされた、狭い路地を入っていくと小さな屋台が軒を連ねる。
平日でも、どの店も活気がある。
歓迎会といっても、舟木さんと私の二人だけ。
え、しっぽりと二人で……ってどういうこと!
「いや、すみませんね。他のメンバーの都合がつかなくて。皆さん、ご家庭の事情などもありまして」
「いえ、いえ。平日ですし、却って申し訳ありません」
「私は飲むのが好きなので、何の支障もありません。お酒はイケる口ですか?」
「弱いです。どちらかというと、食べる方が好きです」
丸テーブルに、背もたれのない丸椅子に座り、手書きのメニューを見る。
いかにも屋台という雰囲気が、すでに私を興奮させていた。
別に、部長と二人だっていいじゃない!
こんな、地元感ある店にいられるだけで満足だ。
「ここは、生サバが美味いんですよ。サバのアレルギーはないですか?」
「え! サバって生で食べられるんですか! サバ大好きです!」
「じゃあ、それ頼みましょう。あとはねぇ……」
イカ刺し、貝焼き、せんべい汁。
名前を聞いただけで、ニヤニヤと笑ってしまう。
「おつかれさまでした。乾杯―」
舟木さんは生ビール、私は緑茶割りでまずは乾杯をした。
暑くもなく、寒くもない、夜風に吹かれながらの仕事終わりの一杯は格別だ!
会話をする間もなく、サバの刺身が出てきた。
「うわー。キレイー」
銀色の皮目とピンク色の身の部分のコントラストが美しい。
しめ鯖では見たことがない、本来の身の色を堪能できる。
「どうぞ、召し上がってください」
「いただきます!」
私がお箸をつけようとすると、舟木さんのスマホが鳴った。
「あ、ちょっと失礼します」
スマホを耳にあてると、席を立った。
私は気にすることなく、サバを口に入れた。
「美味いー! なに、これ。とろける……甘―い」
思わず声に出していた。
でも、周りはザワザワしているので、誰も私の声は拾わない。
美味しい! 美味し過ぎる!
これ、一尾食べたいぐらいだ!
次から、次へと箸を進めたいところだけど、この調子だと舟木さんが戻って来る頃には全て私のお腹の中に消えそうだ。
なので、一旦緑茶割りで、はやる気持ちを落ち着かせた。
続いて、イカ刺しが登場した。
なに、この透き通った食べ物は!
東京でも、イカ刺しが美味しい店に八戸くんが連れて行ってくれたけど。
その比ではなかった。
あー、このサバの刺身を見たら、八戸くんの目は線から糸に変わっただろうな。
美味しいものを誰かと共有したい瞬間って、あるよね……
「すみません。佐山さん……」
舟木さんが恐縮するような、表情をして戻ってきた。
「はい。どうされましたか?」
「実は、家の者が体調を崩したらしくて……その、帰らないといけなくなりまして……」
「え! それは大変ですね。あの、私はひとりでも大丈夫ですので。ご家族の方を第一優先で」
「いや、しかし。歓迎会とお誘いしておいて、おひとりにさせてしまうのも……」
「大丈夫です! 私はひとりでも、美味しいものを食べられれば満足ですので」
本音だった。
これだけ、美味しい料理をいただけるなら、ひとりだろうが、複数人であろうが、私は構わない。
「そうですか……大変申し訳ありません。戻れるようでしたら、戻ってきますので」
「お気遣いなく。お大事になさってください」
舟木さんは何度も頭を下げながら、帰って行った。
ひとり、ぽつんと屋台に残された。
でも、寂しさを感じることなく、目の前にあるサバに集中する。
このサバを私だけで、堪能できる幸せに浸っていた。
藤木さんや戸倉さんからも聞いていない話も多く、大変勉強になった。
終始、穏やかで少し訛りながらお話しする舟木さんは、良い上司なんだろうなーと思いながら聞いていた。
「今夜は軽く歓迎会を開きますよ」
「いえ、そんなお気遣いいただかなくても」
「いえいえ、期待されるほど大層なことはできませんが、ご当地グルメなどどうですか?」
「ホントですか! 食べるのが好きなので嬉しいです。ありがとうございます」
若干、食い気味に返事をしてしまった。
だってここは遠慮するよりも、気持ちよく受け取らせていただくべきだし。
神無月さんも来るのかな?
その後、私は業務委託さんとの1on1に入った。
本日は女性二名。
どちらも、年齢は私よりも上だが子育てがひと段落して、この仕事を見つけられて恵まれていると何度もおっしゃっていた。
また、業務の効率の良い方法を模索していると、幾つか検討している案を見せてくれたりもした。
私は、その前向きな姿勢に素直に感銘を受けていた。
正直、依頼された通りに業務をこなすことが、委託さんの仕事だと思っていた。
だから、自分たちで創意工夫をしているとは想像もしていなかった。
一人、30分の予定が45分ぐらいまで長引いたりもしたが、私にとっては非常に実りのある時間だった。
「みなさん、自分事として業務を捉えられていて、刺激をもらいました」
席に戻ると、神無月さんにそう話しかけていた。
「……そうですか」
ああ、AIだったことを忘れていた。
私は、1on1での高揚感のまま、共感してもらえると思っていたのが間違いだった。
そのまま、チェックしなければいけないメールの作業に戻った。
傾聴力:丁
共感力:丁
フリートーク力:丁
いつの間にか、私の頭の中では神無月さんに対する成績表が出来上がっていた。
でもね、どこかでまだ私は期待しているんですけどね。
隣で背筋を伸ばして、キーボードを叩いている神無月さんに無言の念を送っていた。
🔸🔸🔸
私の歓迎会は、『みろく横丁』という場所で行われた。
提灯が吊るされた、狭い路地を入っていくと小さな屋台が軒を連ねる。
平日でも、どの店も活気がある。
歓迎会といっても、舟木さんと私の二人だけ。
え、しっぽりと二人で……ってどういうこと!
「いや、すみませんね。他のメンバーの都合がつかなくて。皆さん、ご家庭の事情などもありまして」
「いえ、いえ。平日ですし、却って申し訳ありません」
「私は飲むのが好きなので、何の支障もありません。お酒はイケる口ですか?」
「弱いです。どちらかというと、食べる方が好きです」
丸テーブルに、背もたれのない丸椅子に座り、手書きのメニューを見る。
いかにも屋台という雰囲気が、すでに私を興奮させていた。
別に、部長と二人だっていいじゃない!
こんな、地元感ある店にいられるだけで満足だ。
「ここは、生サバが美味いんですよ。サバのアレルギーはないですか?」
「え! サバって生で食べられるんですか! サバ大好きです!」
「じゃあ、それ頼みましょう。あとはねぇ……」
イカ刺し、貝焼き、せんべい汁。
名前を聞いただけで、ニヤニヤと笑ってしまう。
「おつかれさまでした。乾杯―」
舟木さんは生ビール、私は緑茶割りでまずは乾杯をした。
暑くもなく、寒くもない、夜風に吹かれながらの仕事終わりの一杯は格別だ!
会話をする間もなく、サバの刺身が出てきた。
「うわー。キレイー」
銀色の皮目とピンク色の身の部分のコントラストが美しい。
しめ鯖では見たことがない、本来の身の色を堪能できる。
「どうぞ、召し上がってください」
「いただきます!」
私がお箸をつけようとすると、舟木さんのスマホが鳴った。
「あ、ちょっと失礼します」
スマホを耳にあてると、席を立った。
私は気にすることなく、サバを口に入れた。
「美味いー! なに、これ。とろける……甘―い」
思わず声に出していた。
でも、周りはザワザワしているので、誰も私の声は拾わない。
美味しい! 美味し過ぎる!
これ、一尾食べたいぐらいだ!
次から、次へと箸を進めたいところだけど、この調子だと舟木さんが戻って来る頃には全て私のお腹の中に消えそうだ。
なので、一旦緑茶割りで、はやる気持ちを落ち着かせた。
続いて、イカ刺しが登場した。
なに、この透き通った食べ物は!
東京でも、イカ刺しが美味しい店に八戸くんが連れて行ってくれたけど。
その比ではなかった。
あー、このサバの刺身を見たら、八戸くんの目は線から糸に変わっただろうな。
美味しいものを誰かと共有したい瞬間って、あるよね……
「すみません。佐山さん……」
舟木さんが恐縮するような、表情をして戻ってきた。
「はい。どうされましたか?」
「実は、家の者が体調を崩したらしくて……その、帰らないといけなくなりまして……」
「え! それは大変ですね。あの、私はひとりでも大丈夫ですので。ご家族の方を第一優先で」
「いや、しかし。歓迎会とお誘いしておいて、おひとりにさせてしまうのも……」
「大丈夫です! 私はひとりでも、美味しいものを食べられれば満足ですので」
本音だった。
これだけ、美味しい料理をいただけるなら、ひとりだろうが、複数人であろうが、私は構わない。
「そうですか……大変申し訳ありません。戻れるようでしたら、戻ってきますので」
「お気遣いなく。お大事になさってください」
舟木さんは何度も頭を下げながら、帰って行った。
ひとり、ぽつんと屋台に残された。
でも、寂しさを感じることなく、目の前にあるサバに集中する。
このサバを私だけで、堪能できる幸せに浸っていた。



