元カレと同じ名前の街に出張することになりました

 出張先で、1on1をする人数は五人。
 神無月さんから、メンバーの名前とスケジュールが送られてきた。
 一人につき、30分!
 初めましての人と、共通認識がないまま30分も話せる自信がなかった。
 え……こんなに時間要るの?
 その合間には、委託さんの業務をしている様子をそばで見たり、業務についての率直な意見交換をする枠も、二日に渡って各1時間ずつ取られていた。
 新幹線が午後1時に着いて、バスで会社まで30分。
 午後2時から業務について、その日は午後6時まで。
 翌日は午前9時30分から、午後5時には撤収。

「わりと、過酷じゃない?」

 思わず、メールの文面を読んで、そうつぶやいていた。
 藤木さんと戸倉さんにも同じメールが飛んでいたが、私のつぶやきに

「ちょっと詰め込み過ぎという気もしますが、まあ、初めてなので仕方ないかもしれません」

 と、戸倉さんが何の慰めにもならない言葉を吐いた。
 承知してます……
 でも、これが過ぎれば私の八戸に行く本当の目的が待っているのだ。

「頑張ってきます!」
「よろしくお願いします」

🔸🔸🔸

 東京駅を午前9時30分に出発した新幹線は、満席だった。
 私は、東京駅で神無月さんたちへのお土産や、新幹線の中で食べるお弁当などを買い込み指定席に座った。
 周りはスーツを着たサラリーマンが多いが、中には親子連れもいる。
 PCはトートバッグの中に入っているが、私は新幹線の中で仕事をするつもりはなかった。
 八戸に着くまでの3時間半でやることは、観光スポット探しだ。
 レンタカーの予約もしてある。
 あとはどこに行くかをリスト化すればいいだけ。
 種差海岸(たねさしかいがん)蕪島(かぶしま)は海が見えてキレイそうだ。
 世増(よまさり)ダムというところも行ってみたい。
 でも、ついつい食べ物を検索してしまっている自分がいた。
 せんべい汁は聞いたことある!
 絶対食べなきゃ。
 いちご煮って何?
 せわしなく、フリック入力している私の指が不快だったのか、隣に座っているサラリーマンがわざとらしく咳ばらいをした。
 え、別に音出してないし……目の端に映るぐらい良くない?
 いや、ここで同じように不快な態度を取ったら負けだ。
 私は、そっとスマホを置くと買ってきたお弁当を広げた。
 トマトチキンライスと鶏のから揚げが入っている、老舗のお弁当。
 今度は匂いが不快だと、リアクションを取るのだろうか?
 気にしない、気にしない。
 美味しい物をお腹に入れれば、私の機嫌はすぐに治ってしまうから。

🔸🔸🔸

 駅の周辺には何もなかった。
 もっとホテルや商業施設が並んでいるかと思っていた。
 見渡す限り、バス停。
 でも、私は何故かワクワクしていた。
 ここから、出発して見られる景色が幾つも待っているのかと思うと。
 私はバスに乗り込んだ。
 タクシーは早いけど、ローカルバスに乗って揺られて行くのも一興だと藤木さんに言われた。
 私は東京でもよくバスを使う。
 電車よりも時間が読めないけど、車窓から見える風景は新鮮な発見でもある。
 地元の人が続々と乗って来る中、バスは出発した。

 のどかな景色が、だんだん街の顔に変わっていく。
 駅が街の中心地ではなく、ここから中心地に向かうということだろうか。
 店舗やビルが増えていくと、東京でも目にする見慣れた風景に変わった。
 私はスマホで降りる停留所の名前を確認する。
 あと、3駅。
 神無月さんは私を歓迎してくれるのだろうか。
 急に現実的な考えに戻された。
 さっきまでは、観光気分満載だったのに。
 どうか、上手く攻略できますように。
 前に座る、おばあちゃんたちの賑やかな声を聞きながら、そう願っていた。