元カレと同じ名前の街に出張することになりました

 海岸には鮫角灯台(さめかどとうだい)という白く美しい灯台があった。
 でも、この時期はまだ開放されてなかったため上ることはできなかった。

「ここから見る、景色はもっと絶景だろうなー」

 私は灯台を見上げながら、次回来る時の行きたいリストに追加した。
 っていうか、私、また来る気でいるのか?

 駐車場の近くに、カフェがあった。
 時間的に、ここが八戸での最後の食事になりそうだ。
 といっても、まだまだお腹は満腹なんだけど、スイーツなら入る余地あり。
 こじんまりとした、店内に入る。
 さばサンド、さばフリッターとか興味をそそられる名前が並ぶ。
 でも、今揚げ物は食べられそうにないので、たねさしサンデーにした。
 やっぱり、こういうローカルなお店っていいよね。
 しかもオリジナル感溢れるメニューで、ここでしか食べることが出来ないということが大事だったりするし。
 
「お待たせしました」

 運ばれてきた、たねさしサンデー。
 青色のクラッシュしたゼリーの上にバニラアイス。
 さっき見てきた鮫角灯台が描かれているクッキーと、うみねこの形をしたホワイトチョコレートがトッピングされていた。
 種差海岸で見られる全てのものがこの一品に網羅されている。
 とにかく見た目が可愛らしく、食べるのがもったいなかった。
 あらゆる角度からスマホで写すと、スプーンを刺した。
 サイダー味のゼリーの爽快さと、バニラアイスの濃厚さ。
 特別感はないけど、そこが裏切らない、王道の味。
 ゼリーの下にはヨーグルト味のアイスもあって、下からすくうと、酸味と爽快さと甘さが混じり合う。
 そういえば、八戸に来て、初めてスイーツを食べたかも……
 旅というか、出張の締めくくりとしてはベストチョイスだったなと、窓から見える種差海岸に視線を移した。

🔸🔸🔸

 種差海岸から八戸駅まで35分掛けて戻った。
 我ながら、運転上手いじゃんと思いつつ、ひとりドライブを堪能した。
 予定では、もっと回るはずだったのに、食べることに時間を掛けると、他のことがどうでもよくなるということがよくわかった。
 レンタカーを返して、トートバッグを肩にかけ、お土産が入って重くなったスーツケースをゴロゴロと引いて駅に向かう。
 まだ、新幹線の到着までは時間があったため、駅の売店に寄り道をする。
 もう、お土産は入らないのに、それでも名残惜しくて見てしまう。

「あっ! これ! これって青森のなの?」

『イギリストースト』と明記されている、イギリスの国旗が描かれているパッケージが可愛い菓子パン。
 生の食パン二枚に、マーガリンとお砂糖がはさんである。
 見た目は、ただの食パン。
 でも口に入れると、お砂糖がジャリジャリと音を立て、マーガリンがじわっと染み出してくる禁断の味。

『星ちゃん。イギリストーストって食べたことある?』
『イギリスってトーストが有名なんだっけ?』
『ちがうよ、これ。見た目は食パン、味も食パン、だけど食べたら背徳の味』
『なによ、それ。えー生食パンなの? 賞味期限とか大丈夫?』
『いいから、いいから』
『え! なにコレ。甘―い。すごくジャンキーだけど……美味しい』
『でしょー』

 八戸くんからもらったんだ……
 見た目の普通さと口に入れた時のギャップが面白かった。
 これって、青森のソウルフードなのか。
 お店のポップにそう書かれていた。
 定番の味の他にも、幾つも種類がある。
 チョコレート、小倉あん、コーヒー、砂糖じゃり増し。
 すべてマーガリンも入っている。
 後ろに表記してあるカロリーを確認する必要がないほど、高カロリーなのがよくわかる。
 でも、惹かれてしまう。
 私は、気づくと全種類を手にレジに向かっていた。
 賞味期限がそれほど長くないので、ひとりで全てを食べることはできないだろう。
 それでも、買いたかった。
 これも、八戸の思い出のひとつだ。