元カレと同じ名前の街に出張することになりました

 高速を使って、約20分で今回の最大の目的でもある、『八食(はっしょく)センター』に着いた!
 大きい!
 駐車場には、すでにかなりの数の車が停まっていた。
 私は、はやる気持ちを抑えきれずに、思わず駐車場でコケそうになった。
 あー、だからせっかちはよくない!
 自分で自分にツッコミを入れながら、速足で入口に向かった。
 入口にあった案内図を手に取る。
 ひ、広すぎる……
 館内は三つのセクションに分かれていた。
 私がまず目指すべきセクションは、『(くりや)スタジアム』だ。
 ここに、お目当ての回転寿司がある。
 特に週末は混雑するという話だが、ひとりであればすんなりと入れるだろう。
 歩いていると、様々な店が並んでいて、ついつい足を止めそうになる。
 初志貫徹!
 なるべく目に入れないように、目的地へ向かった。

 まだ11時半だけど、かなりの席は埋まっていた。
 席に通されると、まばゆいばかりのお寿司たちがレーンを回っている。
 え、ネタが大きくない?
 小さな黒板には、本日のおすすめの魚が書いてある。
 それを読むだけでも、ワクワクしてしまう。
 とりあえず、値段を気にせず好きなネタを食べるべし!
 私は、レーンに乗せられて回って来るお寿司に全神経を集中させた。

 ウニ、大トロ、ヒラメ、ホタテ、マグロ。
 テーブルの上に燦然と輝くお寿司たち。
 しかも、こんなに大きなホタテは見たことないし。
 ウニの盛りの良さにも感動した。
 小さな声で「いただきます!」と言って、まず箸をつけたのはウニ。
 舌に乗せた途端、一瞬でとろけた。
 濃厚な甘さと、新鮮な潮の香りがこれでもかと、口の中に広がる。
 これを、ひとりで二個も食せるなんて!

「う、美味い……」

 次は、大きなホタテ。
 ほどよく、弾力があるものの、つるんとした喉ごしがやっぱり好きだ。
 一つ口に入れては、ため息を吐き、一つ口に入れては、テーブルをバンバン叩きたくなるほど、感動していた。
 このお店を出るころには、全てのパワーを使い切っているのではないかと自分が怖くなった。

 私は料理の中で、一番お寿司が好きだ。
 それは、決して自分では作れないから。
 じゃあ、フレンチは作れるのかよと突っ込まれると、返答には困るけど。
 でも、これだけ新鮮な海鮮を手に入れ、自分で捌いて、しょっぱ過ぎず、甘すぎないすし飯を用意できるかと言えば、到底無理だ。
 だから、美味しいお寿司があると聞けば、足を運んだ。
 八戸(はちのえ)くんと……
 大トロを頬張りながら、どうして、いきなり振られたのかを考えてみた。
 あの日以来、友人にも会社の人にも相談したし、なんなら有料の占い師にまで縋ったりした。
 でも、何の解決にもならなかった。
 だから、私は考えないという選択をした。
 頭の中にも、胸の奥底にも、八戸くんなんて人は存在してなかったと、思い込むようにしていた。
 でも、今、こうやってその名前と同じ街に来ている。
 何の因果か、こんなに美味しいお寿司を食べながら、思い出してしまっている。
 一皿に二つ載っているお寿司を、二人で分ければその倍の数のネタが食べられる。
 そうやって、八戸くんと分かち合っていたのに……
 どうして、今私は一人で二つのお寿司を食べているのだろう。
 それでも、レーンに伸ばす手は止められなかった。