元カレと同じ名前の街に出張することになりました

 今日の1on1は男性の委託さん、三名だった。
 年代は、二十代、三十代、四十代とバラバラ。
 でも三人に共通していたのは、この仕事が楽しいと口にしていたことだ。
 しかも、前日の女性陣と同じく業務の効率化を考えつつ、自分のスキルをもっと伸ばしたいと前向きな言葉が出てきた。
 あらためて、自分のスキルって何だろう? としばし考えてしまった。
 経験値はあるけれど、それがスキルになっているかは微妙だ。
 私にはこれがあります! と言えることがあるのかな……
 1on1をすると、自分自身の振り返りになるということを実感した。
 傾聴するだけではなく、相手の話を聞きながら、自然と相手への答えを探し、自分へも問いかけていた。
 人との対話は、自分が成長する機会でもあるんだな……

「ランチに行きましょう。ボリュームがあって美味しい定食屋さんがあるんですよ」

 ミーティングルームを出て、自席に戻ると舟木さんから誘われた。
 そういえば、今日のランチについて全く考えていなかった。

「是非! お願いします」
「私もご一緒します」
「神無月さんは珍しく、お弁当ではないのですか?」
「はい。夕べ遅かったもので……」

 それは私に付き合ってくれたからでは?
 でも、ここですみませんと言うのも場がしらけそうなので、無言で通した。

「いらっしゃいませー」
 
 暖簾を潜ると、カウンターやテーブル席以外に、広い座敷の席があった。
 すでに、食べている人の料理を見ると、から揚げが山のように積み上げられている。
 す、すごい……
 四人席に座ると、メニューを見る。

「ここは何を食べても美味しいですよ。しかもボリュームが凄い」
「お隣のテーブルのから揚げに目が釘付けです」
「あれは、おススメです」
「おススメなら、私はから揚げにします」
「じゃあ、私も。神無月さんはどうしますか?」
「……私は煮魚定食で」

 お客さんが、次から次へと入って来る。
 さっきまで空いていた、座敷席もすでに満員だ。

「人気あるんですねー」
「このボリュームでこの価格はなかなかないのでね」
「なるほどー」

 老舗のお蕎麦屋さんのような雰囲気があった。
 年季の入ったテーブルは、傷がついていたり、欠けていたり。
 手書きのメニューも味わい深い。
 店員さんは、活気があって、あの重そうな定食を片手で運んでいたりする。
 私がキョロキョロと忙しく目を動かしていると、隣に座っていた神無月さんが「ふふっ」と声を出して笑ったような気がした。

「ああ、すみません。なんだか新鮮で」
「東京ではこういう店には行かないですか?」
「オフィスの周りにはないんですよ。でも、個人的にこの手の老舗のお店は好きなんです」
「お待たせしましたー」

 目の前に出された、から揚げは流石のボリュームで、一瞬顎を引いてしまった。

「すごいでしょ。食べられますか? 無理だったら残しても大丈夫ですよ」

 どこまでも気遣いのできる、舟木さんに感謝をしつつも私は食べきれる自信はあった。

「大丈夫です。いただきます!」

 カリカリとした衣の中の肉は、信じられないほど柔らかくジューシー。
 生姜とニンニクと醤油の味付けは濃すぎることもなく、ちょうど良い。
 カリカリと歯ごたえのある衣は油っぽくもなく、とにかく食べやすい。

「美味しい―。なんですか、このから揚げは!」
「でしょう。それほど、くどくはないので、これだけ食べても胸やけはしませんよ」

 わりと細身の舟木さんも、モリモリと口に運んでいる。
 神無月さんは、これまたお皿からはみだしそうな大きさの、カレイの煮つけを食べていた。

「お魚も大きいですね」
「甘くて美味しいです」

 三人とも、食べることに集中してそれほど会話は弾まなかった。
 でも、同じ空間で美味しいものを共有できている時点で、私は大満足だった。

🔸🔸🔸

 ランチを食べて、舟木さんや他の社員さんと業務計画についてのMTGをし、自分の業務をこなしていたら、あっという間に退勤時間の5時になっていた。

「昨日、今日と大変お世話になりました。色々と学ぶことも多く、今後の業務に活かしていきたいと思います。また、幾つか宿題も頂いたので、上長と相談して、またご連絡いたします」
「東京から、わざわざありがとうございました。藤木さんや戸倉さんとはまた違った、視点をお持ちでしたので、こちらとしてもヒントになることがありました。お気をつけてお帰りください」

 舟木さんは受付まで送ると言ってくれたが、丁寧にお断りした。
 代わりに、神無月さんが、ビジターズカードの返却のために、一緒に受付まで降りてくれることになった。

「本当に楽しかったです。って、仕事で来ているのにふさわしくない言葉かもしれませんが、学びの場にはなりました。ありがとうございました」
「私も楽しかったです。個人的には、佐山さんとお話した中で、いくつか気づきになることもあって。少し、前向きになれました」

 二人しか乗ってない、エレベーターの中で見せる神無月さんの声も表情も、柔らかかった。
 時間でいえば、一日半しか一緒に過ごせていないけど、私の中では、もう何年も知り合いのような感覚でいた。

「東京に来ることがあれば、是非連絡してください」
「はい。その時は、佐山さんおススメの美味しいご飯屋さんを紹介してください」
「ピックアップしてリストにしておきますね」
「お気をつけて」
「神無月さんも、お元気で」

 お辞儀をして、お互いにバイバイと言いながら手を振って別れた。
 第一印象が悪くても、会話をしていく中で、印象って変わるんだな。
『友達』になれたわけじゃない。
 でも、そこに近づけるための距離が少しは縮まった気がした。
 私は、出てきたばかりの大きなビルを振り返る。
 大きな窓が、西日に反射して光っていた。