学級委員は、最恐と噂の俺のことが好きらしい

 ドクン、と大きく胸が跳ねた。

 親切な学級委員だから、俺に優しくしてくれていたわけじゃなかった。
 学級委員のお仕事じゃなくて――綿巻自身が、俺を選んで、俺のそばにいてくれたんだ。

 驚きと嬉しさと恥ずかしさと、いろんな感情がごちゃ混ぜになって、返事もできずに立ち尽くしていると、綿巻は眉を下げた。

 「……ごめん。急にこんなこと言って、困らせたよね」

 綿巻は寂しそうに微笑むと、掴んでいた俺の手首をそっと解き、一歩後ろへ下がろうとする。
 それだけで胸の奥が、ぎゅっと締め付けられるように痛い。
 いやだ。離れてほしくない。そんな悲しそうな顔をしてほしくない。

 「待って――!」

 気づいた時には、俺の身体が勝手に動いていて。伸ばした手が、綿巻の制服をギュッと掴んでいた。
 引き止められたことに驚いたのか、綿巻が丸くした目で俺を見る。

 「……乃亜」

 口をついて出たのは、苗字ではなく、名前だった。
 初めて呼んだその名前に、自分でも驚く。

 ……なんで、名前なんだろう。
 綿巻が俺のことを名前で呼んだから? ……違う。そんなんじゃない。

 「……え?」

 驚いたように目を見開く綿巻。その顔を見ていると、胸の奥がまた熱く、騒がしくなる。

 そうだ。俺はずっと、救われていたんだ。
 みんなが俺を最恐だと遠ざける中で、この手だけが俺を普通に扱ってくれた。俺の臆病で情けないところも、不器用なところも、全部包み込むみたいに笑いかけてくれた。
 俺がどれだけ嬉しかったか。どれだけ救われていたか。

 ただ親切にしてくれる、学級委員の綿巻だから嬉しかったんじゃない。
 乃亜だったから。
 俺を見つけてくれたのが、乃亜だったからなんだ。

 逃げたくない。
 この手を離したくない。
 乃亜に、もう二度とそんな寂しそうな顔をさせたくない。

 俺の胸を騒がせていた感情の正体が、ハッキリと名前を持って、強く強く輪郭を浮かび上がらせた瞬間だった。

 「……俺、も」

 怖くて声が震える。
 告白なんてされたことがない。誰かが俺をこんなふうに想ってくれるなんて考えたこともなかった。
 それでも、ちゃんと言わなきゃいけない。こんなに勇気がいることを乃亜はちゃんと俺に伝えてくれた。それが、すごく、すごく、嬉しかったから。俺も、ちゃんと伝えたい。

 「俺……ビビりで、かっこ悪いけど……」

 喉が詰まりそうになって、言葉がなかなか出てこない。けれど、乃亜は俺の言葉を急かさずに待っていてくれている。
 掴まれた手首から伝わる乃亜の体温が熱い。その熱が身体中に広がっていって、俺の心臓はもう破裂寸前だ。

 「俺も……乃亜のこと、その……好き……かも……」
 「かも?」

 ああ! なにやってんだ俺! ちゃんと伝えるって決めただろ!!

 「俺も乃亜のことが好きだ!!」