「……え?」
突然投げかけられた予想外の言葉。周りの音が一瞬で消えて、時が止まったんじゃないかと思う。
誰もいなくなった理科室。
手首を掴まれたまま、目の前に立つ綿巻が発した言葉の意味が、脳みそまで届かない。
「……今、なんて?」
自分の声が情けなくかすれていた。
聞き間違いだ。絶対にそうだ。校内放送か、何か別の言葉と聞き間違えたに決まっている。
けれど、綿巻は真剣な顔でまっすぐに俺の目を見つめてくる。
掴まれた手首からは、熱いくらいの体温が伝わってきた。
「……好き。俺、獅狼のことが好きだよ」
「……俺?」
「うん」
心臓が、うるさい。さっきまで普通だったはずなのに、今は胸の奥でめちゃくちゃに暴れている。
――好き。
その言葉を、頭の中で何度も繰り返す。
からかわれているのか、あるいは何か新しい罰ゲームなのか。
……いや、綿巻はそんなやつじゃない……はず。
だったらどうして俺なんかを。怖いって言われることには慣れている。誰も近寄ってこない俺を好きになる要素なんて一つもないに決まっている。それなのに、完璧で優しい学級委員が、なぜ?
……いや、待てよ。分かった、そういうことか。
「……サンキュ。俺も、綿巻のこと良いクラスメイトだと思ってるよ。学級委員としてこんな俺にも優しくしてくれるし、友達として好きだ」
あまりにも真剣に言われるものだから、勘違いするところだった。
でも、怖がらずにそう言ってくれたことは純粋に嬉しくて、口元が緩んでしまう。
……のだが。
なぜか綿巻の顔からすっと笑みが消えた。なんなら少し怒っていらっしゃるような……。
「……とも、だち?」
「え? ああ……友達ではない、のか? クラスメイトとして……」
「違う」
ピシャリと言い切られ、俺は口を閉ざした。
綿巻は掴んでいた俺の手首を引き寄せ、ぐっと距離を詰めてくる。夕暮れの光の中で、綿巻の目は強く熱を帯びていた。
「友達とか、クラスメイトとか、そんなんじゃない。ましてや、学級委員だからでもないよ」
「わ、綿巻……?」
「俺が言ってるのは、恋愛として……獅狼を抱きしめたいくらい大好きで、俺の恋人になってほしいって意味だけど」
「……は!??!?!?」
今度こそ、頭の中が真っ白になった。
れ、恋愛!? 男同士で!? しかも俺を!?
「じょ、冗談だろ……っ!? 俺、男だし、デカいし、みんな怖いって言うし……」
情けないくらい狼狽えてパニックになる俺を見て、綿巻は少しだけ困ったように笑った。でも、その目は、見たこともないくらい優しくて、甘くて。直視できずに息が詰まる。
「冗談なわけないでしょ。一年の時からずっと好きだったんだから」
「……そんな前から?」
「そうだよ。一年の頃、雨の日にさ、獅狼が道端のお地蔵さんに自分の傘を差してるのを見たんだ」
――え?
「誰も見ていないところで、誰に褒められるわけでもないのに、自分の傘をあげちゃう獅狼を見て……目が離せなくなったんだ。雷も、犬も、虫も怖がるのにさ。今だって、一人で黙々と片付けを引き受けちゃう。そんな優しさを……俺はずっと見てたんだよ」
そんな小さなことまで……見てたのか……。
怯えがちな性格も、誰も知るはずがないと思っていた。
なのに、綿巻は知っていたんだ。
俺が忘れていたような小さなことまで、全部、全部――ずっと前から見つめていてくれた。
「みんなの前では優等生ぶってボクなんて使ってるけどさ。獅狼の前だけなんだよ、素の自分でいられるの。……もう、親切な学級委員のフリして側にいるだけじゃ我慢できない。獅狼のかわいいところも全部、俺以外に見せたくないんだ」
突然投げかけられた予想外の言葉。周りの音が一瞬で消えて、時が止まったんじゃないかと思う。
誰もいなくなった理科室。
手首を掴まれたまま、目の前に立つ綿巻が発した言葉の意味が、脳みそまで届かない。
「……今、なんて?」
自分の声が情けなくかすれていた。
聞き間違いだ。絶対にそうだ。校内放送か、何か別の言葉と聞き間違えたに決まっている。
けれど、綿巻は真剣な顔でまっすぐに俺の目を見つめてくる。
掴まれた手首からは、熱いくらいの体温が伝わってきた。
「……好き。俺、獅狼のことが好きだよ」
「……俺?」
「うん」
心臓が、うるさい。さっきまで普通だったはずなのに、今は胸の奥でめちゃくちゃに暴れている。
――好き。
その言葉を、頭の中で何度も繰り返す。
からかわれているのか、あるいは何か新しい罰ゲームなのか。
……いや、綿巻はそんなやつじゃない……はず。
だったらどうして俺なんかを。怖いって言われることには慣れている。誰も近寄ってこない俺を好きになる要素なんて一つもないに決まっている。それなのに、完璧で優しい学級委員が、なぜ?
……いや、待てよ。分かった、そういうことか。
「……サンキュ。俺も、綿巻のこと良いクラスメイトだと思ってるよ。学級委員としてこんな俺にも優しくしてくれるし、友達として好きだ」
あまりにも真剣に言われるものだから、勘違いするところだった。
でも、怖がらずにそう言ってくれたことは純粋に嬉しくて、口元が緩んでしまう。
……のだが。
なぜか綿巻の顔からすっと笑みが消えた。なんなら少し怒っていらっしゃるような……。
「……とも、だち?」
「え? ああ……友達ではない、のか? クラスメイトとして……」
「違う」
ピシャリと言い切られ、俺は口を閉ざした。
綿巻は掴んでいた俺の手首を引き寄せ、ぐっと距離を詰めてくる。夕暮れの光の中で、綿巻の目は強く熱を帯びていた。
「友達とか、クラスメイトとか、そんなんじゃない。ましてや、学級委員だからでもないよ」
「わ、綿巻……?」
「俺が言ってるのは、恋愛として……獅狼を抱きしめたいくらい大好きで、俺の恋人になってほしいって意味だけど」
「……は!??!?!?」
今度こそ、頭の中が真っ白になった。
れ、恋愛!? 男同士で!? しかも俺を!?
「じょ、冗談だろ……っ!? 俺、男だし、デカいし、みんな怖いって言うし……」
情けないくらい狼狽えてパニックになる俺を見て、綿巻は少しだけ困ったように笑った。でも、その目は、見たこともないくらい優しくて、甘くて。直視できずに息が詰まる。
「冗談なわけないでしょ。一年の時からずっと好きだったんだから」
「……そんな前から?」
「そうだよ。一年の頃、雨の日にさ、獅狼が道端のお地蔵さんに自分の傘を差してるのを見たんだ」
――え?
「誰も見ていないところで、誰に褒められるわけでもないのに、自分の傘をあげちゃう獅狼を見て……目が離せなくなったんだ。雷も、犬も、虫も怖がるのにさ。今だって、一人で黙々と片付けを引き受けちゃう。そんな優しさを……俺はずっと見てたんだよ」
そんな小さなことまで……見てたのか……。
怯えがちな性格も、誰も知るはずがないと思っていた。
なのに、綿巻は知っていたんだ。
俺が忘れていたような小さなことまで、全部、全部――ずっと前から見つめていてくれた。
「みんなの前では優等生ぶってボクなんて使ってるけどさ。獅狼の前だけなんだよ、素の自分でいられるの。……もう、親切な学級委員のフリして側にいるだけじゃ我慢できない。獅狼のかわいいところも全部、俺以外に見せたくないんだ」



