可愛くない篠原君の不器用な片想い

 俺は今、ベッドの上に座って、靴下を編んでいる。
 足が冷えると、冬場のサッカー部は辛いだろうから。
 
「なぁ、結斗ぉ」

 そんな俺に後ろから抱き付いて、颯真が体を揺らす。
 手元が非常に見づらい。

「鬱陶しい。揺れるなら、離れろ」
「そんな冷たいこと言うなよぉ」

 大型犬がじゃれるみたいに抱き付いてくる。
 別に、嫌じゃないけど。
 むしろ、可愛いし、嬉しいけど。
 今はお前の靴下を編んでるんだから、大人しくしてくれ。

「あのさぁ」
「ん?」
「優希と奏楽って、やっぱ付き合ってんだって」
「え!」

 俺は手を止めて振り返った。

「あの二人って、そうなの?」
「気付かなかった?」
「そんな気はしてたけど、本当にそうだとは」
「俺は気付いたぞ」

 颯真が得意げだ。
 ちょっとムカつく。

「まぁ、俺は二人が付き合う前から何となく察する場面に出くわす機会、多かったんだけどな」
「染谷と仲良いもんな。同じサッカー部だし」

 奏楽とも同じクラスで席が後ろと前だから、話す機会が多いんだろう。

「そっか、付き合ってるんだ。本人に聞いたの?」
「ん、奏楽がうっかり言っちゃって。そんで優希に聞いた」
「あぁ……」

 そのシーンは容易に想像がつく。

「内緒にしてって言われた」
「思いっきり俺に話したじゃん」
「二人の内緒」
「内緒話って、そうやって広まっていくんだぞ」

 誰にも内緒、という枕詞を付けて伝播されるのが内緒話だ。

「結斗は、誰にも言わないだろ」
「それは、まぁ……話す相手もいないしね」

 恐らく、そのうち手芸部で奏楽がうっかり話すだろうから、聞く羽目になる気はする。

「やっぱり染谷は、内緒にしたいんだ」
「アイツは色々考え過ぎなんだよ。もっと気軽に、仲いい奴には話せばいいのに」
「それは軽すぎる気がする」

 俺は染谷の気持ちがわかる。
 男同士の恋人って、やっぱりちょっと特殊だ。

「結斗も内緒にしたい? 俺たちのこと」
「無駄に話す必要はないと思ってるけど。……話したいの?」

 颯真がうんうんと頷いた。
 顔にも、話したいと書いてある。

「誰に話したいんだよ」
「とりあえずは優希と奏楽に話したいなぁ。あと、穏佳とか」
「寮長の京久野? 何で?」
「穏佳と詩歌も付き合ってんだよ。知らない?」
「知らない!」

 俺は軽く飛び上がった。

「穏佳は内緒にしてないっぽいよ。詩歌も気にする性格じゃないし」
「そう……なんだ。ビックリした」

 寮長の京久野穏佳は真面目な性格のきっちりした人だ。
 そういうのは隠しそうな性格に思えたけど。

「オープンなんだ。意外」

 詩歌とは仲がいいから、気にしない性格なのは知っている。
 天然だけど、割としっかり、というか、ちゃっかりした性格だ。

「だから、俺らもオープンが良いなって」
「何でそんなに話したいの?」
「自慢したいし」
「何を?」
「結斗を」

 颯真がきっぱりはっきり言いきった。
 聞いている俺のほうが恥ずかしくなる。

「俺の可愛い彼氏、自慢したい!」

 颯真が俺に抱き付いた。

「うわ! ちょっと、待って」

 俺の手から編み棒が落ちた。

「それにさ、恋人いるってわかれば、告白減るかなって思ってさ」

 颯真が静かなトーンで言った。

「断る時、恋人いるって言えないの、しんどいんだよね」

 颯真はモテる。
 何せ、サッカー部の王子様だ。
 女子からの告白はきっとこれからも続くんだろう。

「……そういう時、だけなら」

 俺は小さな声で、ぽそりと呟いた。

「必要な時だけなら、言ってもいいよ」

 俺だって、颯真に他の女子や男子が群がるのは嫌だ。
 俺の颯真だって言いたい。

「結斗、可愛い」

 颯真の顔が近付いて、頬にキスをした。

「可愛いとか、いうなよ」
「今の顔もめっちゃ可愛い」

 颯真が俺を抱き寄せて、キスをする。

「ちょっと……!」

 二人して、ベッドにゴロンと転がった。
 見詰め合って、啄むようなキスをする。
 こんな風に触れ合っていられる今が、幸せだ。

「今夜、一緒に寝ない?」
「ん、いいよ」

 顔を逸らしても、すぐに柔らかい唇が追い付いてくる。
 触れ合いながら、じゃれ合って、二人の夜は更けていった。