可愛くない篠原君の不器用な片想い

「……できた」

 ネックウォーマーが完成した。
 先にあげた帽子と同じ毛糸で同じ色のお揃いだ。
 内側に付けたガーゼは替えを三枚、準備した。
 だから、毎日だって使える。

(完璧……だったのに)

 このネックウォーマーを颯真が使うことはない。
 また目が潤む。
 いっぱい泣いたから、もう涙は出なくなった。

 ごしごしと目を擦る。
 こてん、とベッドに横になる。
 俺は完成したネックウォーマーを胸に抱いた。
 泣き過ぎたせいか、眠くなってきた。

「……颯真、好きだよ」

 ネックウォーマーに唇を当てて、言葉を吹き込む。
 こんな言葉、本人には絶対に言えない。
 俺はネックウォーマーに頬擦りしたまま、目を閉じた。
 フワフワと浅い眠りに流された。

 ガチャリ、と鍵が開く音がした。
 颯真が帰ってきたんだろうか。
 意識がフワフワして、ぼんやりしている。
 夢の中みたいだ。

「結斗? 帰ってるよな。寝てるのか?」

 颯真がカーテン越しに声を掛けてきた。
 返事をしようと思うのに、声が出ない。

(そもそも、何て返事したらいいか、わからない)

「相談したいこと、あるんだけど」

 がっちり閉じたマジックテープを少し剥がして、颯真が覗きこんで来た。
 何してんだ、馬鹿。
 それはルール違反だ。
 そう言ってやりたいのに、やっぱり声が出ない。

 俺、寝てるのかな。
 それともこれ、夢なのかな。

「……寝てる」

 颯真がぽそりと呟いた。
 俺はどうやら寝ているらしい。
 ということは、夢の中っぽい。

(夢でも、マジックテープ開けるのは、ダメだ)

 俺の想いとは裏腹に、颯真がコソコソとカーテンのマジックテープをはがしていく。

「……可愛い」

 俺の寝顔を眺めた颯真が、息と共にそう零した。
 
(は……? 今、可愛いって言った?)

 声が小さくて上手く聞き取れなかった。
 でも、そう言ったように聞こえた。

(夢だから、俺に都合よく聞こえたのかな)

 颯真の指が、俺の目尻を撫でた。
 触れるか触れないか、怯えるみたいに、そっと。

「泣いた? そっか……勝手に手芸部に行って、ごめんな」

 颯真が申し訳なさそうに呟いた。
 違う、そうじゃない。
 あれは俺の八つ当たりで。
 俺が泣きじゃくったのは、その後の告白のほうで。

(あの告白、颯真はどうする気なんだろう)

 夢の中なら普段は聞けないことも聞ける気がするのに。
 こんな時に限って俺は話せない。
 俺に都合がいいような、悪いような夢だ。

「あれ? これって……」

 颯真が、俺が抱えているネックウォーマーに手を伸ばした。
 待て、やめろ。持っていくな。
 そう言いたいのに。
 颯真がネックウォーマーをまじまじと眺める。

「裏がガーゼだ。すげぇ、凝ってる」

 颯真が、小さく笑んだ。

「帽子と同じ色。やっぱりネックウォーマー、俺に内緒だったんだな」

 颯真が俺の耳元に顔を寄せた。
 突然、颯真が近付いて、心臓が跳ねた。

「ありがと、結斗。俺、期待するよ?」

 ごくりと息を飲み込んだ颯真が、離れた。
 期待って、何?
 俺に何を期待してんの?
 話せたとしても、俺はきっと聞けない。

(こんな夢、俺に都合が良すぎる!)

 颯真がこんなこと、言うわけない。
 だって、女の子からの告白、保留にしてた。
 考えてもいいって思ったんだろ。
 俺が入る隙なんか無い。

「おやすみ」

 颯真が俺の目の上にタオルを置いた。
 ひやりと冷たい感触だ。
 目を冷やしてくれたらしい。

(夢の中でも、鷹宮は優しい)

 こんな風に誰にでも優しいから、モテるんだ。
 そう思うと、切ない。

 颯真がカーテンのマジックテープを綺麗に止める。
 ドアが開く音がして、人の気配が消えた。

(ちょっと良い夢、見ちゃったな)

 俺はまた、襲い来る眠気に素直に流された。