ネックウォーマーはほぼ編み上がった。
あとは端と端を繋げて輪っかにするだけだけど。
その前に大事な作業がある。
「パッチンボタンか普通のボタン。普通のボタンなら、木のほうがいいかな。首にあたった時、ヒヤッとしちゃうから」
奏楽がボタンを出して説明してくれた。
手芸の話をしている時の奏楽は頼りになる。
俺は、真面目な気持ちで頷いた。
「パッチンボタン、ヒヤッとするかな」
「ガーゼの内側だから、直接は触れないけど、ちょっと冷たいかもね」
「でも、普通のボタンは邪魔っぽい」
「お洒落だけどね」
ネックウォーマーの内側にガーゼを固定する。
そのために使うボタンを悩んでいた。
「やっぱり、パッチンボタンかな」
俺と奏楽がパッチンボタンと呼ぶのは、スナップボタンだ。
奏楽がパッチンボタンと呼ぶので、うつった。
そういうところも、奏楽は素で可愛い。
「プラスチックにすると、ヒヤッとはしないけど。ちょっとパッチンがしづらいんだよね。大きめの金属系が僕のオススメ」
「大きめ?」
「内側でガーゼが動いても、よれないよ」
「そっか。朝練で走ったりしたら動くよな」
思わず口走った。
俺は自分の口を抑えた。
(いや、でも。奏楽にはバレてるのか)
颯真のために作っているなんて話していないのに。
いつの間に気が付いたんだろう。
奏楽は優希ほど鋭くないのに。というか、鈍いのに。
「折角、一緒に作り始めたから、僕は優希にあげるんだ。サッカー部で優希と颯真がネックウォーマーしていたら、お揃いみたいだね」
奏楽が嬉しそうに微笑んだ。
颯真と優希は同じサッカー部で、同じように王子様とか呼ばれているモテ組だ。
(そんな二人が似たようなネックウォーマーなんかしてたら、目立つんじゃ)
俺は思わず息を止めた。
「別に、鷹宮に渡すなんて、言ってない」
小さな声で、精いっぱいの否定をした。
「そうなの? 内緒で颯真に作ってるんじゃないの?」
「それは……」
はっきりと違うとは言いづらい。
かといって、肯定もしたくない。
「おーい、頑張ってるか」
突然、家庭科室の扉が開いた。
颯真と優希が立っていた。
「幽霊部員が部活しに来たぞ」
颯真がどかどかと中に入ってくる。
俺と奏楽は、息が止まる勢いで慌てた。
「ま、待って! 入って来ないで!」
席を立った奏楽が颯真と優希の体を押した。
小さい奏楽が押しても、じゃれているようにしか見えない。
けど、ファインプレーだ、奏楽。
俺はその隙にテーブルの上にあるものを全部、鞄に仕舞った。
「ちょっとタイミング悪かったかな」
染谷が申し訳なさそうに苦笑する。
タイミング、悪いどころの話ではない。
まさか、サッカー部の二人が来るとは思わなかった。
「今日はね、部活ない日なんだけどね。僕と結斗だけ、作りたいものがあったから」
「奏楽、ストップ」
染谷が奏楽の口を手で抑えた。
奏楽が、気付いたような顔をしている。
(染谷も気付いてるんだ。だから奏楽も気付いたのか)
奏楽から話を聞いて、気が付いたんだろう。
ちょっと泣けてくる。
「二人で内緒で、何作ってんの?」
颯真が興味津々な様子で俺の隣に座った。
「内緒だから、教えない」
俺はそっぽを向いた。
「教えてくれてもいいじゃん。俺も手芸部員なんだから」
「幽霊だろ。仮部員だろ」
今年の手芸部は一年生の部員が入らなかった。
廃部寸前の手芸部を助けるためのお助け部員。
名前を置くだけ、ということで颯真と染谷も入部した。
(活動なんかしてないくせに、何でこういう時だけ来るんだよ)
パッチンボタンを付けたら完成なのに。
こんなところでバレたくない。
「俺もたまには何か、作りたい」
颯真が能天気な発言をした。
確かに颯真は器用だし、手芸も地味に上手いけど。
その発言に、イラっとした。
「じゃぁさ、あまり毛糸あるから、それであみぐるみ作ろうよ」
奏楽が懸命にフォローしてくれている。
「あまり毛糸って、今作ってるやつの?」
「そうそう、ネックウォーマーのあまりを……」
「奏楽ぁ!」
さすがの染谷でもフォローしきれない墓穴を、奏楽が盛大に掘った。
「えっと……僕がね、優希にね。ね!」
奏楽が染谷に同意を求めている。
同意を求める先が違うだろ、奏楽。
この場合は俺だろ。
「それは初めて聞いたよ、奏楽」
「そうだった! 内緒だった!」
奏楽の背筋が、ピンと伸びた。
「なんだよ。優希に内緒にしてたのかよ」
颯真がケタケタ笑う。
笑い事じゃない。
お前のせいでバレたんだぞ。
「僕は、別に」
染谷が必死に奏楽にアイコンタクトしている。
そういうことにしておけと言っている。
大変、有難いフォローだ。
「そ……そうなんだ。バレちゃった。えへへ」
奏楽がこてっと首を傾げて笑んだ。
嘘が下手な奏楽の割に、頑張ってくれた。
「奏楽と優希の間に秘密なんか必要ねぇじゃん」
颯真の言葉に、染谷が微妙に慌てている。
俺は首を傾げた。
(やっぱり付き合ってるのかな。今更、驚かないけど)
本人たちが秘密にしたいなら、ツッコまないでおこう。
「んで? 結斗は誰に何を作ってんの?」
颯真の質問が、今は無神経に感じる。
「俺は別に」
「二人で作ってたんだろ?」
「奏楽を手伝っていただけ」
むしろ真逆だ。
奏楽が俺を手伝ってくれていた。
奏楽、ごめん。
「ふぅん……」
颯真の視線が俺のトートバックに向いた。
俺は、さりげなくトートバックの口を閉じた。
「奏楽と二人の内緒って狡いなぁ。俺も混ぜてよ」
颯真が笑った。
能天気で無遠慮な言葉だ。
普段なら気にならないのに、今日はやけに苛々する。
「嫌だよ」
俺の口が勝手に言葉を発した。
「ただの幽霊部員だろ。手芸に興味ない奴が来るなよ」
言った瞬間、言い過ぎたと思った。
かなり本気で苛々した言い方をした。
感じ悪いし、きつかったと思う。
「あ……」
言い訳もフォローも思い付かなくて、言葉が出ない。
「それも、そっか」
颯真が立ち上がった。
「二人とも、邪魔してごめんな。優希、戻ろうぜ」
「え? うん」
染谷が奏楽の耳元で何か言っている。
すぐに颯真を追いかけた。
二人が、家庭科室を出て行った。
家庭科室が、しんと静まり返った。
「結斗!」
奏楽が俺の手を握った。
「優希がフォローしておくから大丈夫って言ってた。きっと大丈夫だよ!」
「あり、がと」
返事がぎこちなくなった。
有難いけど、複雑だ。
「結斗の秘密は守れたし、落ち込まないで!」
「……奏楽は、バレちゃった。ごめん」
「僕のは結斗のついでだもん。大丈夫だよ。結斗のせいじゃないよ」
奏楽の優しい言葉が、沁みた。
あんなこと、言おうと思ったわけじゃないのに。
今までだって、颯真と染谷が突然、手芸部に来たことはあった。
初めてじゃないし、いつものことだ。
一緒に手芸できたら、本当は楽しいのに。
颯真に嫌われたかもしれない。
そう思ったら、胸がぎゅっと苦しくなった。
じわりと、涙が滲んだ。
「結斗、泣かないで」
奏楽が頭を撫でてくれる。
余計に涙が溢れた。
颯真にぶつけた言葉が痛くて。
奏楽の優しさが、嬉しいのに辛くて。
涙が止まらなかった。
あとは端と端を繋げて輪っかにするだけだけど。
その前に大事な作業がある。
「パッチンボタンか普通のボタン。普通のボタンなら、木のほうがいいかな。首にあたった時、ヒヤッとしちゃうから」
奏楽がボタンを出して説明してくれた。
手芸の話をしている時の奏楽は頼りになる。
俺は、真面目な気持ちで頷いた。
「パッチンボタン、ヒヤッとするかな」
「ガーゼの内側だから、直接は触れないけど、ちょっと冷たいかもね」
「でも、普通のボタンは邪魔っぽい」
「お洒落だけどね」
ネックウォーマーの内側にガーゼを固定する。
そのために使うボタンを悩んでいた。
「やっぱり、パッチンボタンかな」
俺と奏楽がパッチンボタンと呼ぶのは、スナップボタンだ。
奏楽がパッチンボタンと呼ぶので、うつった。
そういうところも、奏楽は素で可愛い。
「プラスチックにすると、ヒヤッとはしないけど。ちょっとパッチンがしづらいんだよね。大きめの金属系が僕のオススメ」
「大きめ?」
「内側でガーゼが動いても、よれないよ」
「そっか。朝練で走ったりしたら動くよな」
思わず口走った。
俺は自分の口を抑えた。
(いや、でも。奏楽にはバレてるのか)
颯真のために作っているなんて話していないのに。
いつの間に気が付いたんだろう。
奏楽は優希ほど鋭くないのに。というか、鈍いのに。
「折角、一緒に作り始めたから、僕は優希にあげるんだ。サッカー部で優希と颯真がネックウォーマーしていたら、お揃いみたいだね」
奏楽が嬉しそうに微笑んだ。
颯真と優希は同じサッカー部で、同じように王子様とか呼ばれているモテ組だ。
(そんな二人が似たようなネックウォーマーなんかしてたら、目立つんじゃ)
俺は思わず息を止めた。
「別に、鷹宮に渡すなんて、言ってない」
小さな声で、精いっぱいの否定をした。
「そうなの? 内緒で颯真に作ってるんじゃないの?」
「それは……」
はっきりと違うとは言いづらい。
かといって、肯定もしたくない。
「おーい、頑張ってるか」
突然、家庭科室の扉が開いた。
颯真と優希が立っていた。
「幽霊部員が部活しに来たぞ」
颯真がどかどかと中に入ってくる。
俺と奏楽は、息が止まる勢いで慌てた。
「ま、待って! 入って来ないで!」
席を立った奏楽が颯真と優希の体を押した。
小さい奏楽が押しても、じゃれているようにしか見えない。
けど、ファインプレーだ、奏楽。
俺はその隙にテーブルの上にあるものを全部、鞄に仕舞った。
「ちょっとタイミング悪かったかな」
染谷が申し訳なさそうに苦笑する。
タイミング、悪いどころの話ではない。
まさか、サッカー部の二人が来るとは思わなかった。
「今日はね、部活ない日なんだけどね。僕と結斗だけ、作りたいものがあったから」
「奏楽、ストップ」
染谷が奏楽の口を手で抑えた。
奏楽が、気付いたような顔をしている。
(染谷も気付いてるんだ。だから奏楽も気付いたのか)
奏楽から話を聞いて、気が付いたんだろう。
ちょっと泣けてくる。
「二人で内緒で、何作ってんの?」
颯真が興味津々な様子で俺の隣に座った。
「内緒だから、教えない」
俺はそっぽを向いた。
「教えてくれてもいいじゃん。俺も手芸部員なんだから」
「幽霊だろ。仮部員だろ」
今年の手芸部は一年生の部員が入らなかった。
廃部寸前の手芸部を助けるためのお助け部員。
名前を置くだけ、ということで颯真と染谷も入部した。
(活動なんかしてないくせに、何でこういう時だけ来るんだよ)
パッチンボタンを付けたら完成なのに。
こんなところでバレたくない。
「俺もたまには何か、作りたい」
颯真が能天気な発言をした。
確かに颯真は器用だし、手芸も地味に上手いけど。
その発言に、イラっとした。
「じゃぁさ、あまり毛糸あるから、それであみぐるみ作ろうよ」
奏楽が懸命にフォローしてくれている。
「あまり毛糸って、今作ってるやつの?」
「そうそう、ネックウォーマーのあまりを……」
「奏楽ぁ!」
さすがの染谷でもフォローしきれない墓穴を、奏楽が盛大に掘った。
「えっと……僕がね、優希にね。ね!」
奏楽が染谷に同意を求めている。
同意を求める先が違うだろ、奏楽。
この場合は俺だろ。
「それは初めて聞いたよ、奏楽」
「そうだった! 内緒だった!」
奏楽の背筋が、ピンと伸びた。
「なんだよ。優希に内緒にしてたのかよ」
颯真がケタケタ笑う。
笑い事じゃない。
お前のせいでバレたんだぞ。
「僕は、別に」
染谷が必死に奏楽にアイコンタクトしている。
そういうことにしておけと言っている。
大変、有難いフォローだ。
「そ……そうなんだ。バレちゃった。えへへ」
奏楽がこてっと首を傾げて笑んだ。
嘘が下手な奏楽の割に、頑張ってくれた。
「奏楽と優希の間に秘密なんか必要ねぇじゃん」
颯真の言葉に、染谷が微妙に慌てている。
俺は首を傾げた。
(やっぱり付き合ってるのかな。今更、驚かないけど)
本人たちが秘密にしたいなら、ツッコまないでおこう。
「んで? 結斗は誰に何を作ってんの?」
颯真の質問が、今は無神経に感じる。
「俺は別に」
「二人で作ってたんだろ?」
「奏楽を手伝っていただけ」
むしろ真逆だ。
奏楽が俺を手伝ってくれていた。
奏楽、ごめん。
「ふぅん……」
颯真の視線が俺のトートバックに向いた。
俺は、さりげなくトートバックの口を閉じた。
「奏楽と二人の内緒って狡いなぁ。俺も混ぜてよ」
颯真が笑った。
能天気で無遠慮な言葉だ。
普段なら気にならないのに、今日はやけに苛々する。
「嫌だよ」
俺の口が勝手に言葉を発した。
「ただの幽霊部員だろ。手芸に興味ない奴が来るなよ」
言った瞬間、言い過ぎたと思った。
かなり本気で苛々した言い方をした。
感じ悪いし、きつかったと思う。
「あ……」
言い訳もフォローも思い付かなくて、言葉が出ない。
「それも、そっか」
颯真が立ち上がった。
「二人とも、邪魔してごめんな。優希、戻ろうぜ」
「え? うん」
染谷が奏楽の耳元で何か言っている。
すぐに颯真を追いかけた。
二人が、家庭科室を出て行った。
家庭科室が、しんと静まり返った。
「結斗!」
奏楽が俺の手を握った。
「優希がフォローしておくから大丈夫って言ってた。きっと大丈夫だよ!」
「あり、がと」
返事がぎこちなくなった。
有難いけど、複雑だ。
「結斗の秘密は守れたし、落ち込まないで!」
「……奏楽は、バレちゃった。ごめん」
「僕のは結斗のついでだもん。大丈夫だよ。結斗のせいじゃないよ」
奏楽の優しい言葉が、沁みた。
あんなこと、言おうと思ったわけじゃないのに。
今までだって、颯真と染谷が突然、手芸部に来たことはあった。
初めてじゃないし、いつものことだ。
一緒に手芸できたら、本当は楽しいのに。
颯真に嫌われたかもしれない。
そう思ったら、胸がぎゅっと苦しくなった。
じわりと、涙が滲んだ。
「結斗、泣かないで」
奏楽が頭を撫でてくれる。
余計に涙が溢れた。
颯真にぶつけた言葉が痛くて。
奏楽の優しさが、嬉しいのに辛くて。
涙が止まらなかった。



