可愛くない篠原君の不器用な片想い

 期末テスト期間中で部活がないので、寮に帰ろうと歩いていた。
 教室から笑い声が聞こえて、何気なく振り返る。
 1組の教室に颯真がいた。

(聞き覚えのある声だと思った)

 一緒に話しているのは、同じ手芸部の小鳥遊(たかなし)奏楽(そら)だ。
 
(そういえば二年になって、奏楽と仲良くなったって、話していたっけ)

 颯真は、一言話せば友達、みたいな人だ。
 友人も多い。
 奏楽とは二年生になって同じクラスになった。
 席が前だから話すようになったと言っていた。

(何を話してるんだろ。ちょっと気になる)

 俺は、そろそろと教室の壁に擦り寄った。
 耳をそばだてて、話を窺う。

「奏楽は今、何作ってんの?」
「えっとね。新しいあみぐるみとね。あと、ネックウォーマー」

 あまりにタイムリーな話題に、心臓が口から飛び出そうになった。
 ネックウォーマーは、実は奏楽と一緒に作っている。
 凝った作りだから協力してもらっていた。
 折角だからと、奏楽も同じ物を作っていた。

(奏楽! それ言っちゃダメなやつ!)

「ふぅん。奏楽は作った物、自分で使うの?」
「あみぐるみは、机に飾ってる。優希にもあげたよ。だから、ネックウォーマーも、優希にあげようと思って」

 染谷優希は奏楽と同室の生徒だ。
 何となく、二人は恋人なんじゃないかなと思っているけど。
 まだ聞けてない。

「いいなぁ、ネックウォーマー。俺も欲しい。作ってよ」

 颯真がさらりと、とんでもない発言をした。

(颯真のネックウォーマーは、俺が作ってるから! 奏楽、作ってあげなくていいから!)

 奏楽には誰にあげるとか話してないから、俺が誰のために作っているか知らない。

「颯真のネックウォーマーは……」

 奏楽が、そう言って黙った。

「ん? 何々? 作ってくれんの?」

 嬉しそうに聞き返す颯真に、イラっとした。
 お前の分は、僕が作っているんだよ。
 もう少し待ってろ。

「えっとね……小鳥さんが届けてくれると思うから、大丈夫だと思う」

 奏楽が訳の分からない言葉を放った。

「小鳥さん? 小鳥遊だから、奏楽のこと?」
「違う。別の小鳥さん」

 小鳥……もしかして、俺のことかな。
 俺も奏楽と同じくらい背が低いから。
 メルヘンていうか、奏楽らしく絶妙にわかりにくい例えだ。

(ていうか、もしかして奏楽、俺が颯真のためにネックウォーマー作ってるって気付いてる)

 どちらかといえば鈍い奏楽に気付かれている。
 がくりと、俺は肩を落とした。
 恥ずかしくて一人、悶える。

「篠原、どうしたの?」

 突然、声を掛けられた。
 慌てて顔を上げたら、染谷(そめや)優希(ゆうき)がいた。

「な、何でもない。ちょっと……通りかかっただけ」

 俺は慌てて顔を逸らした。
 多分、赤いであろう顔を見られたくない。

「そっか」

 染谷は奏楽と違って敏いから、色々気付かれそうでヒヤヒヤする。
 けど、深追いはしてこない。
 自分の胸に仕舞うタイプだ。
 そこだけは、ちょっと安心だ。

「奏楽、お待たせ」

 染谷が何の躊躇いもなく、教室の中に声を掛けた。

「優希! 待ってないよ。颯真と話していたから」

 奏楽がちょろちょろと教室の外に出てきた。

「あれ、結斗? どうしたの?」

 廊下で小さく丸くなっている俺を、奏楽が見付けた。

「いや……その」
「偶然、通りかかったらしいよ」

 染谷がさりげなくフォローしてくれた。
 こういうところが正統派王子様だ。

「そっか……あ!」

 突然、声を上げて、奏楽の背筋がピンと伸びた。
 奏楽が、俺にコソコソと寄った。

「僕、話してないからね。バレてないよ」

 奏楽が、得意な顔をしている。
 今の発言、色々アウトだよ、奏楽。
 ツッコミどころが多すぎて、逆に何も言えない。

「うん、ありがと」

 俺は、仕方なくお礼を言った。

「うん!」

 嬉しそうに奏楽が頷く。
 こういう素直な顔が可愛いから、奏楽は好かれるんだろう。
 俺とは違う。

「あれ、結斗だ。優希と一緒だったの?」

 声を聴き付けたのか、颯真が出てきた。

「俺も偶然、廊下で会ったんだよ」

 染谷が無難な返しをした。
 本当に助かる。

「ふぅん……」

 颯真に疑うような視線を向けられて、ドキリとする。

「俺もう帰るけど、結斗も帰る?」
「うん、帰る」
「じゃ、一緒に帰ろうぜ」

 颯真がいつもの笑顔を俺に向けた。

「うん……」

 そんな顔されたら、無意識に頷くに決まってる。
 
「じゃぁ、俺たちは行くね」
「またね、颯真、結斗!」

 優希と奏楽が俺たちに手を振った。

「どこかに行くのかな」
「買い物だって」
「寮で同じ部屋だし、一緒に出掛けるって、仲いいね」

 本当に付き合っているんだろうか。
 正直、羨ましい。

「まぁ、仲良しだよな」

 何となく、颯真が煮え切らない返事をした。

「俺らも、どっか行く?」
「どこかって、どこに?」

 ちょっとだけ、嬉しくなった。
 なのに、俺はいつもと変わらない顔でいつもと変わらない返事をする。

(颯真から誘ってくれたのに)

 こういう時、奏楽みたいに無邪気に喜んだりできたら、違うんだろうか。

「あんまり思い付かんけど。コンビニでも行っとく?」
「買うものない」

 あぁ、また。
 可愛くない返事をした。
 だけどさ、コンビニって何だよ。
 次いで感、半端ない。

「新作のチーズ肉じゃがコロッケまん、食べてみたい」
「それは俺も食べたい」
「んじゃ、行こうぜ」

 颯真が嬉しそうに笑った。
 胸がキュンと、甘く締まる。

「仕方ないから、鷹宮に付き合ってあげる」

 俺たちは二人で歩き出した。
 もう一年以上、同じ部屋で生活しているのに、俺はまだ颯真って名前で呼べないんだ。
 そんな自分をもどかしく思うけど。
 隣を歩く距離が、もっと近付いたらいいと願った。