可愛くない篠原君の不器用な片想い

 手芸部に入った理由。
 廃部寸前の手芸部を助けるためのお助け入部。
 そんなのは建前で。
 本当の理由は颯真だった。
 寮で同室の鷹宮颯真に、俺は長いこと片想いしている。

「これ、いいなぁ。色もいいし、柔らかいし、あったかいし」

 颯真が毛糸の帽子を被って、はしゃいでいる。

「文化祭の模擬店に出すのに作った余りだけど」

 これは、嘘。
 颯真をイメージして毛糸を選んで、デザインを決めた。
 本には颯真っぽいデザインがなかったから、自分で書いた。
 部長や部員に手伝ってもらって、パターンから起こした。

「俺にくれんの、嬉しいよ。ありがと」

 颯真が爽やかに笑う。
 その笑顔に、胸のドキドキが止まらない。
 なのに俺は、何事もないような顔で、編み棒を動かす。

「結斗って器用だよな。何でも作れんの?」
「何でもは、無理」

 別に器用なわけじゃない。
 努力してないわけでもない。
 態度や表情に出ないだけだ。

(知ってるくせに)

 俺の手元を覗き込む颯真をちらりと窺う。
 颯真は普通に感心した顔で俺の手元を眺めている。
 俺が作った帽子を被ったまま。

(――かわいい)

 頭周りはタイトに、頭の上は余って後ろに垂らせるようにデザインした。
 正直、作るのにめちゃめちゃ苦労した。
 颯真には、内緒だけど。
 俺が作った帽子を嬉しそうに被っている颯真を見ているだけで、満足だ。

「今は何を作ってんの?」
「内緒」

 今作っているのも、颯真のためのネックウォーマーだ。
 サッカー部の颯真は、冬場の朝練が辛いと話していた。
 汗をかいてもいいように内側にガーゼを巻いて、取り外せるようにする。
 ちゃんと交換用のガーゼも用意する。

(完璧だ。しかも、帽子より簡単)

 十一月になって、少しずつ風が冷たくなってきた。
 本格的に冬になる前に、作り上げてしまいたい。

「……あんまり、見ないで」

 俺は背を向けて手元を隠した。

「えー、いいじゃん。見てるの、楽しい」

 颯真が後ろから覗き込もうとした。
 手が、俺の肩にかかる。
 ドクン、と心臓が跳ねた。

「ちょ、やめ」

 振り返ったら、颯真の顔が間近にあった。
 ほんの少し顔を突き出したら唇が触れてしまいそうだ。
 俺は、動けなくて固まった。

「ん? 結斗? おーい」

 颯真が俺の目の前で手を振っている。
 能天気すぎるだろ。
 まだ近いんだよ。
 俺はズルズルと後ろに下がった。

「近いんだよ、離れろ」

 離れた挙句、完全に背中を向けた。
 だって、顔が熱い。
 きっと真っ赤だ。
 こんな顔、見られたくない。

「悪かったって、怒るなよ」

 颯真が気楽に俺の肩を叩いた。
 ポンポンが、軽すぎる。

「俺、風呂行くけど。結斗は?」
「もう済ませたよ。早くしないと、風呂が締まるよ」
「だな、行ってくる」

 颯真が被っていた帽子を脱いだ。
 大事そうに畳むと、机の引き出しに仕舞った。

(なんで、引き出し?)

 ガサゴソと風呂の準備をして、颯真が部屋を出て行った。
 バタン、とドアが閉まった音がした。
 俺の肩から力が抜けた。

「本当、鈍感」

 妙に敏いくせに、時々驚くほど鈍感で。
 俺の気持ちには全く気が付いていない。
 同室になった一年の時から、俺は颯真が好きだ。

「ちょっとくらい、気付けよ」

 ぽそりと呟く声は、可愛くない。
 自分でもそう思う。
 けど仕方ない。
 俺はそういう性格だから。
 小さく息を吐いて、俺は颯真のためにネックウォーマーを編み始めた。