カインドネス・リベンジ

 次の日から、いじめのターゲットは空良に変わった。

 ドラマの中でしか見ないような酷いいじめが繰り返される。
 集団無視からはじまり、様々な嫌がらせ行為、ネットの誹謗中傷、そして暴力。
 考えられるいじめは、すべて行われていた。

 クラス全体が俊介の指示に従い、空良をいじめ抜く。

 それでも空良は決して挫けることはなかった。
 それが俊介のいじめに拍車をかけていくことになる。

 雅人は見ていられなくて声をかけようとするが、空良は「しばらくは俺に近づかない方がいい」と雅人を遠ざけた。

 空良はそれから毎日、俊介からの様々な嫌がらせに耐え続けていた。

「なぜ、あいつは平然としていられるんだ」

 俊介はどうしても空良の泣きっ面が見たかった。

 自分に逆らい、平然としていられるのがどうしても許せない。
 俊介にとって耐えがたいことだった。
 自分のこの手で、空良を絶望させてみたかった。

 俊介は考えた。
 そして、恐ろしい企みが頭に浮かぶと、喜びに震えた。


 ある日、俊介は雅人を呼び出した。

 正直行きたくなかったが、逆らえば何をされるのかわからない。
 その恐怖に抗うことができず、しかたなく雅人は俊介のもとへ向かう。

 久しぶりに二人きりで対峙し、雅人の身体は恐怖で震えていた。

 俊介の目は氷のように冷たく、雅人を見下ろしてくる。
 雅人は不安と緊張から、ごくりと唾を飲み込んだ。

「雅人、おまえ空良の家に火をつけろ」

 耳を疑うその言葉に、雅人は目をしばたたかせる。

 俊介は雅人に近付き、そっと耳打ちした。

「嫌だと言ったら、おまえの家族が路頭に迷うぞ」

 一瞬、頭の中が真っ白になる。
 雅人は横目で俊介の顔を窺った。

 俊介の表情は、おぞましいものだった。

 悪魔だ……悪魔だこいつ。
 雅人には俊介が悪魔に見えた。

 俊介の父は市長で、雅人の両親は市役所勤務だった。
 俊介の言っている意味が、雅人にも理解できた。

 でも、それでも、空良を裏切ることなんてできない。
 ましてや放火なんてできるわけがない。

「嫌だっ……そんなこと、できないよ」

 震えながら弱々しく言う雅人に、俊介が詰め寄り微笑む。

「おまえ……確か弟いたよな」

 雅人は驚いて俊介を見た。
 確かに、雅人には年の離れた幼い弟がいる。

「あの子が、どうなってもいいのか?」

 俊介が不気味に笑う。

 まさか、そんな非道なことができるわけ……。
 いや、こいつならやりかねない。
 俊介はそういう人間だ。

「やめてくれ……あの子には何もしないでくれ!」

 雅人は涙を浮かべながら俊介にすがりついた。
 泣きながら土下座するが、俊介の態度は変わらない。

 泣きじゃくる雅人を冷たい目で見おろし、俊介は大きなため息を吐く。
 そして、諭すように告げた。

「……だったら、わかるな?」

 俊介は満足そうに微笑み、雅人の肩を叩いた。


 雅人は俊介が居なくなってからもその場を動けず、ただ泣いていた。

「ごめんっ、ごめん、空良……ごめん!」

 雅人は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を歪ませ、いつまでも嗚咽をもらし続けていた。