擬態陽キャの俺、陽キャスパダリ先輩に囲われる

 翌朝、夏休み中だけど、大学の図書館で調べ物をしていた。バイトが入っていない時は、下宿の暑さから逃れるため、図書館で日中を過ごしているのだ。
 お昼時になったから売店でも行こうかと外へでると、灼熱の太陽に照り付けられ、京都の夏の洗礼を受ける。テラスを横切って歩いていると、木陰のベンチに座っている修先輩の姿が目に入り、勇気を出して、声をかけてみようかなと思ったその時――。
 華やかな女子学生が先輩に駆け寄り、あっという間に三人に囲まれてしまう。一人が甘えるように腕を絡めたら、先輩はやんわり躱すだけで、本気で振り払おうとはしない。楽しそうに和気あいあいとしている姿は、俺が知っている先輩よりイキイキしているように見える。

「西園寺くん、今度のサークル飲み来るやんな?」
「行けたら行くわ~」
「それ、来る気ないやろ。それと、そろそろ車乗せてぇや~ うちらって仲良しやろ? ドライブ行こうや〜」
「えー、イヤヤ。襲われるやん、俺」
「なにゆ~てくれてんの!? 逆やろ普通!」
「いやいや、女子の方が怖いねんで? 俺みたいな純情な男、一コロやろ?」

 女子たちがキャッキャと盛り上がっているのが嫌でも聞こえてきて、俺の心は凍っていく。さっきの話から推測すると、先輩は車通学みたいだ。多分実家も太そうだし、なんでバイトしてるのか分からないような身なりだし。ハイブラとか高級時計とか……。俺のような田舎から出て来た貧乏学生とは、別世界の人なのかも。
 先輩にビンタした金髪の子も車に乗せてもらえたり、あんな風に腕を組んでイチャイチャしてたのかな……想像するだけで肝が冷えていく。俺なんて揶揄って遊ばれているだけの後輩にすぎないのに、浮かれていた自分がバカみたいだ。
 急遽、来た道を引き返し、大学を出て下宿に戻る。ベッドに倒れ込み、バイトの時間までふて寝することに。
 
 それからは、徹底して先輩を避けるようにした。今度は本気だ。絶対に深入りしないと心に決めて、バイト先でも最低限のやり取りはするが、二人きりになると頑なに口を閉ざす。
「京ちゃん、なんか最近変やない? 俺、何かしたん?」
「いえ、なにも……」そう言いながらも、全く視線を合わさない。先輩の興味が他の子に移るまで、このままの状態をキープする。
「ほんまに……?」と、困惑したように眉を下げる先輩の声を聞くと胸が痛いけど、止めない。

 閉店作業中に、洗い場で皿を洗っていると、薫先輩が隣に並んで手を動かし始めた。
「おつかれ~ なんか最近元気ないやんな? 疲れてるん?」
 うわっ、バレてる。ここは、元気を見せないと。
「いえ。そんなことないですよ? あとこの間、シフト代わってくださってありがとうございました」
「それはええよ、お互い様やし。……ところで京くん、最近西園寺のこと避けてるやんな? 西園寺凹んどってワロタ」
 薫先輩は半笑いで、洗い終えた皿を俺に渡してくれるのに、受け取る手が震えてしまう。

「へぇ……そうなんですね」
「京くん他人事みたいやな。もしかして、なんかされたん? 心配やわ」
「いえ……もう大丈夫なんです」
「ほんまに? まあ、西園寺のことは、あんまり気にせんでええし。辛気臭い顔しとるけど、ほっとき。それとな、京くんのシフトも、西園寺が店長に無理言うて同じ日に入るようにしてるらしい。知っとった?」
「……え」
 胸の奥が、雑に握りつぶされたみたいに痛んだ。
「本気で狙ってんのか、気まぐれなんかは知らんけど。まあ京くんが嫌なんやったらしゃーないな」
 そう言うと、薫先輩は軽く俺の肩を叩いて、厨房の奥へ戻っていく。

 いつも同じ日にバイト入ってるな、とは思ってたけれど、偶然ではなかったみたいだ。あの気にかけてくれてるみたいな態度も、計画的だったってことなのか。まかないの時間、一緒に食事出来るの楽しかったのに。なんか、罠に嵌められたみたいな気持ちになって、修先輩のゲスいところが、やっぱりむかつく。