【Web版】無華の花嫁3~秘めた力を狙われた少女は、黒薔薇の殿下に溺愛される~

 雲の隙間を、巨大な稲妻が駆け巡った。
 今までとは次元が違う。山をも砕くような規模の雷が、まさに今、降り注ごうとしている。

 ふらり、と身体が勝手に前へ出る。
 もし私のせいで暁臣様に何かあったら。もし、この温かな場所を、また失うことになったら——。

 私は……また……一人ぼっちの、あの冷たい蔵へ戻るの?

「そんなの……嫌です……暁臣様……!」
「すみれ様!いけません、危険ですっ!」

 咄嗟に綾乃様が私の腕を強く掴んだ。
 その指先が、私以上に激しく震えているのが伝わってくる。

「でも、あの方がっ……!」

 空が鳴る。大気が震える。
 落雷の予兆が、大地を揺らす。
 視線の先で、暁臣様の『異能』が苦しげに歪んだ。
 やはり黒い渦は、先ほどよりさらに縮み始めている。

「……暁臣様……っ!」

 バリバリバリッ!!!
 と、天が裂けるような衝撃音。

 考えるより早く、私は綾乃様の腕を振りほどいていた。
 無我夢中で、嘲笑を浮かべる東宮殿下の横をすり抜け暁臣様の元へ走る。

 草履はどこかで脱げた。
 足裏に砂利が食い込み、転びそうになる。痛い。けれど止まれない。

「暁臣様……!!!!」
「すみれ、来るなっ!!」

 漆黒の球体が霧散し、完全に消失した——その瞬間。
 私は暁臣様の広い胸に、全力で飛び込んだ。

「だめだ、離れろ……今来るのは危ない……っ!」
「嫌です!絶対に離れませんっ!このまま、一緒に……っ!」

 このまま雷に焼かれて死んでしまっても構わない。
 独りで生き残るくらいなら、暁臣様と共にあることを選びたい。

 目を開けることすらできないほどの白い光が、私たちを包み込んだ。
 内臓にまで響く重い衝撃。私はただ、暁臣様の衣の感触だけを頼りに、必死で立っていた。

「……すみれ……?」