異能を持たない花嫁と最強のあやかし

「すっ、(すめらぎ)さま!?」
 何日か後、突然、あやかしが家を訪ねてきた。
 (たちばな)家以外のあやかしが家を訪ねることなんて、滅多にない。
 使用人たちは、掃除やら料理やらで大忙しだ。
 もちろん、私も廊下の拭き掃除を永遠にやらされている。
 高貴な身分の方が訪問されるときは、必ず事前に言ってほしい……。
 使用人は大変なんだよ……。

「今日は、どういった……」
「ここ(たかむら)家には、娘がいるよな?」
「え?ええ。(たちばな)家の跡継ぎに嫁いだ、柊香(しゅうか)がおりますが……」
「……もう一人、いるよな?」

 なんでこんなに応接室から離れた廊下の掃除をしなきゃいけないの……?
 意味あるの……?

「…………もう一人、ですか?……ああ、まあ、はい……」
「その(たかむら) 桜子(さくらこ)を花嫁にもらいたい」

 応接室のほうが、なんだか騒がしい。
 なにかあったのだろうか。

「さっ、桜子(さくらこ)ですか!?(すめらぎ)さまに、桜子(さくらこ)を!?」
「ああ、そうだ」
「……いや…………。桜子(さくらこ)には、異能がありませんが……」
「構わない」

 まあ、私には関係ないか。
 関係あるわけない。
 高貴な身分のお客さまのことなんて……。

「……(かおる)桜子(さくらこ)を呼んできて。……ちゃんと、良い着物を着て来るように言うのよ」
「かしこまりました……」

 ……窓の拭き掃除でもしようかな。
「さ、桜子(さくらこ)さん……」
(かおる)さん。……なんでしょう?」
 遅い、とか怒られるのかな……。
「奥さまがお呼びです。余所行きの着物を着て、応接室に来るように、と」
 え……?
 応接室……?
 お客さまが来ているよね……?
 どうして、私が……?
「わ、分かりました……」
「そこの掃除はやっておきますから。急いでください」
 急いで階段を駆け上がる。
 屋上の扉を開け、小屋に入る。
 一つだけある余所行きの着物を着て、髪飾りの店でおまけで貰った髪飾りもつける。
 ……呼ばれたということは、(たかむら)の娘としてお客さまに会うということだと思ったから。
 地味だけど、仕方ない。
 すぐに応接室に向かう。
 その途中、使用人たちの冷たい視線を感じたけれど、気にしてはいけない。
「……失礼します。桜子(さくらこ)です」
「入りなさい」
 なんだか、ピリピリした空気を感じる。
「……そこに座りなさい」
「はい……」
 よく分からないまま、椅子に座る。
 顔を上げると、そこにいたのは、この前街でぶつかった人だった。
 ……どうして、ここに?
「…………(すめらぎ)さまが……、(すめらぎ)家の次期当主の方が、あなたを花嫁にしたい、と」
「え……?花嫁……?」
 どうして、私が……?
 私は、異能を使えない出来損ないなのに……。
「そうだ。……俺は、お前を俺の花嫁にしたい」
 ……あれ。
 そういえば、(すめらぎ)って……?
「あやかしの頂点に立たれるお方が、異能を持たない女と結婚するなんて……」
 そうだ。
 (すめらぎ)家は、あやかしの頂点に立つ家。
 ……最強のあやかしの家。
 そんな家の次期当主の花嫁なんて、私には荷が重すぎるよ……。
「……だからなんだ?……一人、娘があやかしに嫁いでいるのなら、分かるだろう?あやかしは、どうしようもなく惹かれてしまう相手……運命の相手と出会うことがある」
「それは分かっています。……でも、桜子(さくらこ)は……」
「異能を持っていようが持っていまいが関係ない。……俺の運命の相手は、(たかむら) 桜子(さくらこ)だ」
 運命の相手……。
 あやかしが、一生の内に必ず出会うとされている相手。
 それが、あやかしなのか、人間なのか。
 ……異能持ちなのか、無能なのか。
 華族なのか、農民なのか。
 誰にも分からない……。
「……少し、考える時間をください」
「後日、ご連絡いたしますから」
「……待っている。なるべく早く頼む」