異能を持たない花嫁と最強のあやかし

「いってきます……」
 屋敷を出て、街に向かう。
 姉上の櫛を買いに行く。
 ……姉上に頼まれた櫛を売っている店は、高級な櫛のお店として有名な店だった。
 店に入る。
 見た目で、異能を持っていないとはバレない。
 それだけが救いだった。
 一応、街に出るときには、良い着物を着ていく。
 街に出る時、恥をかかないように、と一着だけ貰ったのだ。
 櫛を買って、お店を出る。
 (たかむら)家の使用人だと言ったら、値引きしてくれた。
 ついでに、姉上好みの髪飾りを売っていいるお店にも寄る。
 一つ買っておく。
 ……余ったお金で買ったから、問題ない。
 それに、新しい髪飾りが欲しいと言っていたから、大丈夫だろう。
 ……怒られても、構わない。
 少しぼんやりしながら、来た道を戻る。
 ……ああ、帰ったら、また掃除だな……。
 そんなことを考えていたせいで、全く気付いていなかった。
 前を歩く人に。
「うわっ」
 という声と共に、誰かとぶつかってしまった私は尻もちをつく。
「す、すみません……」
 買った櫛は、割れていない。
 そのことにホッとする。
「すみません……。お怪我、ないですか?」
 ぶつかった相手は、とても美しい顔をした青年だった。
「ない。……君は?」
「大丈夫、です」
 緊張して、うまく話せない。
「そうか……。……なら、良かった……」
「すみません……。失礼します」
 じっと見つめられることに耐えきれなくなって、逃げ出そうとしてしまう。
「あ、待って……。……君、名前は、なんていうの?」
「…………たか……」
 (たかむら) 桜子(さくらこ)と名乗ろうとしてから、気付く。
 ……私は、(たかむら)家の娘であってはいけないんだ。
「……(たかむら)家の使用人です…………」
 名乗れるわけがない。
 絶対に、名乗れない……。
「俺は、名前を聞いている」
桜子(さくらこ)、です……」
 次になにか言われる前にその場を立ち去る。
 少し申し訳ない気持ちになりながらも、帰りを急いだ。