いつもと同じ21時頃に上がったが何故か先輩の声が聞こえてきて驚いた。後ろを振り向くとニコニコと機嫌のいい先輩がいた。
「何してるんですか。こんな遅くに。帰らなくていいんですか?」
「いーの。前に一人暮らしって言ったでしょ?家でひとりだからちーくん待つことにしたの」
「……そういえば……そんなこと言ってましたね」
たしか初めて俺のバイト先に来た時、一人暮らしと聞いた気がする。その時はまだ先輩のこと嫌な奴としか思ってなかった。
でも今は少し違う。
ウザイけど、いい距離感の先輩。俺は他人と関わらないからこんなふうにグイグイ来られる方がいいのかも。
だから先輩との関係も続いてるんだと思う。
「ねー。良かったら……今日泊まってかない?明日土曜日で学校も休みだし」
ぼんやりと考え込んでいたら先輩が珍しく緊張したように俺を誘った。
前も誘われたけどこんな真面目な感じではなかった。もっとふざけていたけど、今日は違った。
自分の心の変化もある。
……今日なら、先輩の家行ってもいいかも。
「いいですよ。今日、親仕事で夜いないんで。明日もバイトは午後からだし」
「ほんと!やったー!じゃあ早速行こ!」
俺の返事にぱあっと表情を明るくさせる先輩はいつも以上に輝いていた。また断られると思ったのだろう。
その様子を見ながら不覚にも胸がきゅっと締め付けられた。
「……なんだ?これ」
「ちーくん、どうしたの?」
いつの間にか先輩は俺の手を掴むとまるで恋人のように手を繋ぎ直した。はっとしたけど振りほどくことはできなくて。
さらに胸がぎゅっと締め付けられた。
……こんな気持ち、知らない。初めてだ。
「なんでもないっす」
その気持ちを隠すように下を向いて歩く。
先輩の家までなんだか遠く感じた。
***
しばらく歩くとあるアパートが見えた。
「着いたよ!少しボロいけどそこは許して!」
ペロッと舌を出しておちゃらける。だけどそんなことはどうでも良くて、俺は目の前のアパートを凝視した。
……なんだか、みたことある。
でもどこど見たんだ?
「別に気にしないです。俺ん家のアパートもボロいんで」
「そう?なら良かった。ここが俺の部屋だから」
一部屋の前にたどり着く。先輩は俺から手を放し、カギを開けた。
「……懐かしい……」
先輩に促され、中に入ると。自然と何故かそんな言葉が口から出てきた。



