はぁとため息を着きながら歩き出す。
ーーだけど。
足音が聞こえてきたと思ったら。なにかにふわっと優しく抱きしめられた。大きくて暖かな優しい温もり。
立ち止まり、振り返るとそこには俺に抱きついている先輩がいた。
「せん、ぱい……?」
「ごめん。ちょっとだけこうさせて」
若干パニックになり慌てて腕を振りほどこうとしたけどそう言われてるし固まってしまった。
先輩が、俺を抱きしめてる……?
なんで……?
人通りの少ない道で先輩とふたりきり。背中から感じる温もりが心地よい。男の人に抱きしめられるなんて経験初めて。
だけど、不思議と嫌な感じはしない。
「先輩……」
反射的に俺は何故か前にあった先輩の腕をぎゅっと握った。本当は振りほどこうと思ったのに。
何をやってるんだ、俺は。
しばらく抱きしめられていたら突然ポケットに何か突っ込まれた。
「ちーくん。……ありがとう。また明日学校で。連絡先のIDポケット入れといたから」
「はぁ!?って、先輩!?」
いたずらっ子のような会話に思わず振り返る。だけど先輩はもうそこにはいなくて、走り去る姿が見えた。
……今の時間は一体なんだったんだ。自分でもよくわからなかったけど、素直に先輩のことを受け入れていたな。
「……夜神朔玖……か。いちおー覚えとこ」
ポケットからメモ用紙を取り出しぽつりと呟く。ようやくしれた先輩の名前。さっきはあんなこと言ってしまったけど少しは話してやるか。
そんなことを考えながら今度こそ家に帰って行った。
翌朝。
俺は教室の自分の席でスマホとメモ用紙のにらめっこをしていた。昨日はあれからずっとどうしようか悩んでいた。
連絡先に先輩を追加するかしないか。
「……どーすっかな」
「おはよう!なんだ、千景が珍しく教室で悩んでいるな。悩みでもあんの?」
「朝からうるせーよ、朝霧。ほっとけ」
悩んでいたらこの学校で唯一友達と呼べる関係の朝霧玲が話しかける。
彼は不良仲間?でたまに一緒にサボったり、自由気ままに関わったりする奴。髪も派手な茶色でこいつもみんなに怖がられているひとり。
「なんだ?これ連絡先のIDじゃん。何、彼女でもできた?」
机に顔を突っ伏すとひょいとメモ用紙を取り上げられた。ケラケラと笑いながら俺に聞く朝霧は悪魔のように見えた。
「うるせー。彼女じゃねぇよ。返せ!」



