たしかに顔は熱いなと感じていたがまさかここまで赤くなっているとは思っていなかった。
他人の言動にあまり振り回されない俺だけどなんでかあの人にこんな顔をさせられた。
……たった一度、顔を見合せた日に。
「……はぁー……何やってんだ、俺」
バシャバシャと顔を洗い、深いため息を着く。今からバイトだというのに一気に疲れてしまった。
こんな事になるなら最初から自分の席で寝ときゃ良かった。今日のサボりは失敗したな。
でも……。
「なんであの先輩は俺の名前を知っていたんだ?」
自分は顔も名前も知らない先輩だった。なのに向こうは俺の名前も顔も知っているようだった。
校内で少し有名になっていること位は自分でもわかっていた。でもそれでも初対面の後輩にあんな態度をとるだろうか。
……よく分からない先輩に出会ってしまったかもしれないな。
タオルで顔を拭きながらなんとなくそんなことを考えながらその日は学校を後にした。
***
数日後。
「お疲れ様でしたー」
週末のバイト終わり同じバイト仲間に声をかけてから店を後にした。スマホの時計を見ると時刻はまだ20時。
いつもは21時まで仕事をしていたが今日は客がいないからといつもより早くあがらされた。
本当は最後まで仕事をしていたかった。
「……家に帰りたくねぇな」
ぼんやりと歩きながらボソッと呟いた。俺の家はいわゆる母子家庭というやつで、父親は居ない。母親は夜の仕事をしているため家にはほとんどいなかった。
日中たまに帰ってきても寝てるか仕事の準備をしているかのどちらか。同じ部屋に住んでるのにまるで透明人間のような扱いを受けていた。
家にいてもつまらない。気を紛らわすためにバイトを始めた。お金を貯めて早く家を出たかった。
「だったら先輩と遊ばない?」
「うわっ!って、また先輩デスカ……」
はぁとため息をついていると目の前にこの前出会った先輩がいた。
つか、なんでこの先輩は俺のバイト先まで知ってるんだ?バイト先知らないとここまでフツー来ないよな?
それに今日は週末の日曜日だぞ?
「そうだよ!君のバイト先入手したから遊び人来ちゃった。意外だね。カフェのバイトしてるなんて」
「……別にいいじゃないすか」
「ウェイター姿も似合っていたよ!コーヒーもケーキも美味しかった。こんなとこで働けるの幸せだね」
「なっ!?見たんすか!?バイト姿!」
適当に返事していたつもりがいつの間にかしっかり会話になっていた。学校の保健室で会ってからは初めて顔を合わせた。
それは俺が保健室とか先輩が行きそうな場所を避けていたというのもあるが。



