「ごめん、ごめん。そんな驚くと思わなかった」
そんな俺を見ながらヘラヘラとそう答えるのはやっぱり知らない生徒。彼はふわふわな茶色い髪を揺らしながら俺を見ている。
ニコニコと人当たり良さそうな笑顔で。
「知らねぇやつがいたら驚くだろ。つかそこどけ。邪魔だ」
「やだー。怖いな。少し先輩と話さない?」
睨みを効かせて退いてもらおうとしたがそれをあっさりと避けられてしまった。睨むと誰もが凄むのにこいつは一体なんなんだ。
じっと改めて見てみる。するとブレザーのネクタイが紺色だということに気づいた。うちの学校では学年でネクタイの色が違う。
1年生は緑、2年生は紺色、3年生は赤。
つまり、目の前にいる彼はひとつ歳上の2年生の先輩ってことになる。
「……やです」
面倒事に巻き込まれたくないから一応敬語を使っとく。さっきまでタメ語だったが。
「なんで嫌なのさ。君、1年生の白河千景君だよね?」
「なんで、俺の名前……」
ニヤッと意味深な笑みを浮かべながら教えていない俺の名前を言ってきた。思わずゾッと背筋が寒くなる。
悪目立ちするから先輩の間でも有名なのか?
俺の髪は金髪で少し長め。いつもどこか睨んだりイライラしたりしながら生活していた。そのせいか俺には“不良”というレッテルが貼られてしまった。
まぁその方が授業サボりやすいし先生に何も言われないから楽なんだが。
モヤモヤと考えていると、急に顔を近づけて耳元で先輩は何かを囁いた。
「千景くん……いや、ちーくんの方がいいかな?俺と一緒に遊ばない?」
その低く、どこか心地よいトーンの声にぞわぞわっとなる。
この先輩は……何を考えてるんだ?
突然の誘いにどうしたらいいかわからなくなる。
「いや、いいです!俺バイトあるんで!」
「あ、ちょっとー」
バッと先輩を押しのけ俺は保健室を飛び出すように走り出した。先輩は名残惜しそうに声を出すが振り返らない。
……なんだ、なんだこの感情は。
走って廊下の月辺りまで来た時俺は自分の顔が熱くなっているのに気づいた。はぁはぁと荒い息を整える。
知らない後輩によくあんな声であんな言葉を言えるんだ。それになんで俺はそのことに……興奮してるんだ。
ドキドキと暴れる心臓をぎゅっと掴むように胸元に手を当てる。
顔を洗おう。それからバイトに行くか。
走ったせいで汗もかいた。
トイレの水道で顔を洗おうと鏡を見る。
「……なん、だ……これ」
そこに映っていたのは耳まで真っ赤に染った俺の顔。まるで中学生が恋に落ちたようなそんな顔だった。



