"花"を持たない無能令嬢の身代わり結婚

 柳瀬(やなせ) (せん)
 今、最強の軍人として国民から恐れられている人。
 冷血。
 冷酷。
 冷淡。
 無慈悲。
 そんな噂が流れている人。
「……でも、本当に良かったな、瀬璃那(せりな)柳瀬(やなせ)に嫁ぐことにならなくて」
「本当よ。私には、もう朔人(さくと)がいるのに」
 そう。
 良かったの。
 お姉さまが、嫁ぐことにならなくて。
 お姉さまには、恋人がいるから。
莉彩(りさ)ちゃんが嫁ぐんだろ?可哀そー。相手は、あの柳瀬(やなせ) (せん)だろ?最強軍人の。無能令嬢を、アイツが愛するわけないし」
 無能令嬢……。
 "花"を持たない私は、無能令嬢と呼ばれている。
 "花"を持つ人には、大抵の場合、特別な力が与えられているから。
 ……お姉さまには、水を発生させる力が。
 お母さまには、熱を発生させる力が。
 "花"を持たない私には、もちろん何もない。
「向こうで捨てられれば良いのよ。そもそも、柳瀬(あっち)に行った時点で、私たちには関係なくなるんだから」
 女性が他家に嫁ぐということは、実家と縁を切るということ。
 それが、この世界での認識だった。
 離婚した後にどうするかは、自分で決めないといけない。
 就職先や、嫁ぎ先も。
 自分で探さないといけない。
 お金持ちの令嬢で、溺愛されている娘とかなら、実家が手助けしてくれるかもだけど……。
 お姉さまはまだしも、私は愛されていないから、絶対にありえない。
 ……しかも、"花"を持たない私を選んでくれる人なんていない。
 離婚させられたら、私の人生はそこで終わる。
「アイツがいなくなったら、私たちも結婚式を挙げましょう?」
「ああ、そうだな」