清掃の時間からはじまる推し活物語

おそらく、こんな日がくることを、頭のどこかで察知していたのかもしれない。

あと数日で2学期が終わる、世間はXmasムード全開の12月のある日、矢野先輩が転校することを知った。

バレー部の練習後に、全部員が集合したタイミングで、矢野先輩から最後の挨拶があった。

本人は詳細は言わなかったが、駅まで一緒に帰った2年の先輩達から、いろいろと話を聞くことができた。

矢野先輩は、どこから見てもただ者ではないイケメンぶりなので、時々芸能事務所からスカウトされていたらしい。

ずっと断っていたのに、どういう心境の変化があったのかは知る由もないが、事務所に所属して本格的にその道に入るため、都内の芸能コースのある高校に転校することになったそうだ。

矢野先輩から、ギリギリまでこのことは伏せていてほしいと頼まれていたらしく、2年生以外の部員にとっては青天の霹靂となった。

驚き、寂しいと思うのと同時に、先輩が進むべき道に一歩踏み出したことを、誇らしく感じた。

僕にとって矢野先輩は、RPGの世界で例えると、圧倒的勇者だ。
僕は、勇者を側で支える、魔道士みたいな存在になりたいと思っている。

主人公に憧れているが、一線を超えることは絶対にない。
少し後ろから、必要なときに力を貸す。
それでいい。

あとで知ったのだが、八神も僕と近い感情で、矢野先輩のことを見ていたらしい。

ただ、八神は僕と違って、部活で先輩と話せるような関係ではないから、たまたま勇者が訪れた村の、「村人A」のような感覚で、先輩のことを見ていたようだ。

だから、僕が八神に
「2年の矢野先輩が、転校することになったから、思い出作りに協力してあげてほしい。」
と頼んだ時も、文字通り、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。

でも、すぐに真顔になって
「わかった。」
と了承してくれた。

八神のこういうところ、いいなと思う。

特に仲が良い、ということもないのだが、同じクラスにいるから、八神の頭の回転の速さや、意外と大胆な性格にも、なんとなく気付いていた。

一見地味だが、何かのきっかけで主人公になりうる、妙な魅力を秘めている。

その「きっかけ」は、おそらく矢野先輩の存在だ。

だから、僕は八神と矢野先輩を繋ぐ役目を、買ってでることにしたのだ。