清掃の時間からはじまる推し活物語

僕がバレー部に入部したのは、不純な動機からだった。

この高校に入学してすぐ、体育館で部活動紹介のオリエンテーションが行われた。

各部、新入部員の獲得のために、様々な趣向を凝らしたパフォーマンスをしていた。
進学校のわりに、部活動にもかなり力を入れていることに驚いた。

バレー部は、部員全員が某アニメのキャラクターになりきり、アニメ口調でルールを説明したり、次の試合への意気込みを、切々と語った。
会場は笑いと拍手に包まれ、大いに盛り上がった。

僕は運動は好きだが、入部するなら、上下関係の厳しいスポ根部は避けたい思っていた。
だから、バレー部の和気あいあいとした雰囲気は、好印象だった。

それに、僕が一番好きなキャラクターに扮していた矢野先輩に、一瞬で心奪われてしまい、気付いたら体験入部を申し込んでいた。

体験入部では、グループ分けをして簡単な基礎練習をした。

オリエンテーションの時の盛り上がりの成果か、かなりの人数の1年生が参加していた。

だから、僕が矢野先輩のグループに入れた時点で、勝手に運命を感じてしまい、
「はい、入部確定。」
と、早々に決心していた。

矢野先輩は、僕の推しキャラに似て、見た目はミステリアスで冷たそうだが、実際は明るくてコミュ力が高い。
まさに、一軍男子だった。

入部して3ヶ月ほど経ち、部員全員と気軽に話せるようになった頃、矢野先輩がふと、僕にこんな質問をしてきた。

「雅玖と同じクラスの、なんだっけ…八神?
あの子って、どんな子なん?」

「八神、ですか?
あいつは、まあ、一言でいったらアホですよ。」

「えっ?アホそうには見えないんだけど。」

「こないだなんか、椅子で片脚バランスとってて、思い切り後ろにひっくり返ってましたし。」

「焼却炉でゴミ焼いてるとこ見ただけなんだけど、なんか、もっと大人しそうと言うか、クールなイメージだったわ。」

「あいつ、重度の人見知りなんで、最初はとっつきにくそうに見られるんですよ。」

「へぇ…。」

僕は、わりと人の感情の動きに敏感な方だと、自負している。
この時、矢野先輩の、八神に対する何気ない興味が、好意寄りの方に傾いたことを感知した。

そもそも、矢野先輩は誰とでも気軽に話すし、友人も多いが、自分から人に興味を持つことはほとんどない。
来る者拒まず、去るもの追わずスタイル。

だから、先輩の方から八神のことを聞いてきた時点で、察するものがあった。
(この時はきっと、本人もあまり深い意味はなく、ちょっと聞いてみたくらいの感覚だったのだろうけど)

僕は、矢野先輩のことを好きだが、その好きは、よくある好きとは違う。

僕の使命は、先輩のお役に立つことであり、見返りは求めない。

アニメの見すぎ、先輩のことを神格化しすぎ、
と言われても構わない。

僕の立ち位置は、けして主人公ではなく、影で暗躍するタイプの脇役だと自覚している。

それで満足だし、大袈裟かもしれないが、それが僕のアイデンティティだ。