清掃の時間からはじまる推し活物語

それからも、先輩との連絡は続いてはいたが、どこかよそよそしい会話に終始していた。

そして、先輩は益々忙しくなっているようで、既読スルーの日も増えた。


放課後、昇降口で外靴に履き替えていたら、やたらと察しのいい二階堂が、
「矢野先輩と、なにかあった?」
と、声をかけてきた。

「今日、部活休みだから、話聞くけど?」

正直、どうしたらいいのかわからず一人で悩んでいたから、二階堂の申し出に甘えて話を聞いてもらうことにした。

通学路の途中にある公園のベンチに座って、自販機で買ったホットドリンクで手を温めながら、現状を説明した。

二階堂は黙って話を聞いていたが、ふと、こんな質問をしてきた。

「あのさ、ちょっと話ズレるかもだけど、『矢野先輩の思い出作りに協力してほしい』って僕が頼んだ時、即答でOKしたの、なんで?」

「それは…先輩と話せるチャンスを無駄にしたくなかったから。」

「それは分かるんだけど、普通、怖気付くし、一旦考えるじゃん?」

二階堂の指摘は、もっともだと思う。
多分、昔の俺だったら、気後れして断っていたかもしれないな、と思う。

「俺、今後の人生で、自分の身に訪れるチャンスは絶対逃さないって、誓ったんだ。」

「誰に?」

「自分に。」

「へえ、いつ?」

「小学6年の時。
俺、こう見えて絵を描くのが得意でさ。
それで、卒業記念アルバムの表紙を描かないかって先生に打診されたんだけど、自信なくて断ったんだ。
そしたら、他の子が描くことになって。
できあがったアルバムを見た時、これなら俺の方がもっと上手く描けたのにって思っちゃったんだよね。
性格悪いって思われるだろうけど。
でも、同級生も、親たちも、すごい、上手って褒めてて。
悔しかったけど、断ったのは自分だし、そいつだって上手く描けるかどうか不安はあったはずなのに、引き受けたわけじゃん。
逃げた自分はダサいなって思って。
そん時、もうどんな小さなチャンスも逃がさないって決めた。」

「そうなんだ…。
でもさ、人の根っこにある部分ってそう簡単には変わらないから、自信のなさから逃げたくなる気持ち自体は、今も八神の中に残ってると思うんだよね。
その一方で、八神には『約束は絶対に守る』っていう強い倫理観がある。
今はその誠実さが上回って、良い方向に作用しているのかもね。」

「なんか難しいこと言ってんね。
まあ、確かに約束は守る方だと思うけど。」

「じゃあ、八神が先輩に、ずっと推し続けるって言ったのは、守るつもりの約束だよね。
それって、すごい覚悟だと思うんだけど。」

「そりゃ、適当に言ったわけじゃないし、本気で先輩のこと、一生推せると思ってる。」

そう言いながら、ハッとした。
俺が先輩のことをずっと推し続けるって決意は、堂々と胸を張って先輩に伝えていいことじゃないか?

好きな気持ちを表す手段は、人それぞれだ。
金で愛情表現をする人もいれば、束縛という形になってしまう人もいる。

俺は、推すという表現の仕方になってしまっているだけで、先輩を好きだという気持ちがブレることはないと、確信している。

そのことを俺は先輩に伝えたい。

「二階堂、ありがとな。俺いま、視界が開けた感じだ。」

「いや、お礼を言われることはしてないよ。
八神が自分で、何かに気付いたんだろ。」

「俺のおしるこ、飲む?」

「いや、いいよ。
自販機でおしるこ買う男子高校生、初めて見たわ。」