清掃の時間からはじまる推し活物語

先輩と神社で会った日から、毎日欠かさず、俺からメッセージを送るようにした。

おはようございます
おやすみなさい
の他に、
席替えで、二階堂の隣になりました
焼却炉の担当じゃなくなりました
頭に鳥のフンが落ちてきました
先輩にフラれる夢を見ました
といった、しょーもないこともマメに送信した。

先輩からは、たまに既読だけの時もあるが、
おはよう
おやすみ
そして、
佐伯元気そ?
焼却炉で焼き芋は作れたん?
ウンがついたということやね
フラねーから
…と、律儀に返信してくれた。

てか、焼却炉で焼き芋を作る話を、先輩が知っていたことに驚いた。
クラスメイト数名と一緒に、こっそり作って食べたことを伝えたら、
「オレも、その焼き芋会参加したかったわー」
と残念がっていた。

そんな、他愛のない会話を日々積み重ねることで、俺と先輩を結ぶ見えない糸が、少しずつ太くなっていく気がして嬉しかった。

だけど、先輩が事務所の意向で新しいアイドルグループのメンバーに抜擢されてから、流石に返信の頻度が減ってしまった。

先輩は歌もダンスもやってこなかったから、とにかく必死に練習するしかなくて、毎日クタクタらしかった。

電話で直接話した時も、いつの間にか寝落ちしていて、俺は先輩の寝息を聞けてラッキーだったが、翌朝すごい勢いで謝られた。


そんなある日、先輩から久々に会おうと連絡が来た。
都内にある、先輩の事務所裏のカフェで、お茶しながらゆっくり話そうということになった。

俺は時間通りにカフェについたが、先輩から
「ごめん、少し遅れる」
と連絡があり、一人で待つことになった。

芸能人が生息しているような、こんなおしゃれエリアにはほとんど来たことがないため、慣れないし落ち着かない。

スマホをいじったり、キョロキョロと店内を見渡したりして、所在なく時間をやり過ごしていたら、20分くらい遅れて、先輩がカフェに入ってきた。

キャップを目深に被り、顔はほとんど見えないが、シルエットが明らかに一般人ではない。
俺にはスピリチュアルな能力はないが、特別なオーラをビシバシ感じる。

先輩は、奥の席にいる俺にすぐ気付いて、
「悪りぃ!」
と手を合わせながら席に着いた。

芸能事務所のすぐ裏にあるだけあって、店員さんも慣れているらしく、イケメンの登場に特に浮き足立った様子もなく、水を運んできた。

「コーヒーと、チーズケーキ2つください」
店員さんが、先輩のオーダーを受けてカウンターの奥へ行ったあと、
「え?2つですか?」
と聞き返した。
先輩に見とれていて、ワンテンポ遅れてしまった。

「ここのチーズケーキ、マジで上手いから。
遅れたおわび。
嫌いじゃないよな?」

「好きですけど…いいんですか?」

「うん、ほんと待たせてごめん。
レッスン後にちょっとあって。」

チーズケーキはちょうど良い甘さで、しっとり濃厚で本当に美味しかった。

「え、これって神々の食べ物ですか?」
と、俺が驚きの感想を述べると、
先輩は少し小声になって
「お前んちのホットケーキには負けるけど。」
とフォローしてくれた。

「そんなわけないじゃないですか。
うちのは素朴で懐かしい味ってのが売りなんで、要するに、誰でも食べたことがある味ってことですよ。」

「でも、オレが食べてきた歴代スイーツの、ランキング1位なんだけど。
八神と一緒に食べたからかな。」

先輩はたまに、こんな甘い言葉をストレートに繰り出してくる。

「…今も、一緒に食べてるじゃないですか。
じゃあ、このチーズケーキがうまいのも、きっと先輩と一緒だからですね。」
言いながら、自分で照れてしまった。

「八神、耳赤い。かわいい。」

「先輩!さっき、遅れた理由、レッスン後になにかあったって言ってましたけど、どうしたんですか?」
話を逸らそうとして、つい立ち入ったことを聞いてしまった。