清掃の時間からはじまる推し活物語

3学期が始まって数週間が経っていた。

先輩が、
「久しぶりってほどでもないけど、そっちの空気が吸いたくなった。」
と言ったので、俺の地元で会うことになった。

会いに行けるアイドルはいるが、会いに来てくれるアイドルなんて前代未聞すぎる。

少し前まで、この街は先輩が当たり前に通っていた場所だが、人目の多い所で会うのは避けた方が良いと判断した。

誰かに見られたからと言って、なにも問題はないが、先輩に余計な気疲れをさせたくないと思った。


駅から南に10分ほど歩くと、大きな公園があって、その東側に、小さな神社がある。

駅前は近代的なビルが立ち並んでいるが、神社周辺は高い木々に囲まれていて、とても静かだ。
正月以外は人が少ないし、狭い境内なので長居をする参拝客はそういない。

だから、その神社で直接待ち合わせをすることにした。

先輩は、用事を済ませてから来るとのことで、時間は14時に決まった。

この神社には表参道と裏参道がある。
​俺の自宅からだと、表参道を通った方が行きやすい。
長い石段を上って、鳥居をくぐると、神聖な空気に包まれる気がした。

先輩は駅から来るから、裏参道から入ってくるはずだ。

初めて先輩と待ち合わせをした時は、人見知りから来る不安と、思い出作りというミッションを完璧に遂行しなければ、という緊張感があった。

今日は、先輩に会える嬉しさでドキドキがおさまらない。
引きちぎれそうなくらい尻尾を振っている犬の気持ちって、こんな感じなんかな?

心ここに在らずで御神木を見上げてみたり、目の前を歩いている鳩に「ハト…」と話しかけてみたり、挙動不審になっていたら、後方から砂利を踏む音が聞こえた。

そして、ふわっといい香りがしたと同時に、背後から優しく抱きしめられた。

「会いたかった。」

先輩との再会が、こんなドラマのワンシーンみたいになるなんて妄想すらしてなくて、心拍数が跳ね上がりキュン死しそうになった。

「お、俺も先輩と会いたかったです!」

某会いに行けるアイドルの曲みたいになりかけながら振り返ると、先輩はちょっと見ない間にさらに魅力が増していて、一般人ではないことがリアルに伝わってきた。

「もうお詣りした?」

「いえ、まだです。俺もさっき着いたばかりで。」

一緒に手水舎で身を清め、本殿で手を合わせた。

俺の願いは決まっているが、先輩は何を祈っているのだろう。

ちなみに、この神社のご利益は、縁結び、夫婦円満、子孫繁栄だ。