清掃の時間からはじまる推し活物語

毎週見ていたドラマが終わり、そろそろ寝るかーと立ち上がりかけた時だった。

白シャツを着た矢野先輩と、真っ青な空のコントラストが爽やかな、清涼飲料水のCMが目に入った。

不意打ち過ぎて、思わず「えぇっ?!」と声が漏れてしまった。
画面越しに見る先輩は、別世界の住人のようで、本人だと認識するまでに、一瞬のタイムラグが生じた。

現実は冬だというのに、先輩は澄み切った青空の下にいる。
そのことが、なおさら不思議な感覚を抱かせた。

先輩は、眩しそうに目を細めて、架空の恋人にペットボトルを渡す演技をしている。

初々しい。
それなのに、どこか堂々としている。

それは、表舞台で生きる覚悟が、無自覚のうちに身についている者の特徴なのだと思う。

飲料水を飲み干したあとの笑顔が印象に残り、
「このかっこいい子、誰?!」
とネットで検索する人が続出しそうなCMだ。

商品の宣伝と、タレントの売り出し、両方を狙っていることが一目瞭然で、先輩への期待の高さが見てとれた。

夏の風景だから、昨年の夏に撮影していたということか。

俺は、矢野先輩がいよいよ世に放たれたことが、嬉しかったし、誇らしかったが、なぜか少しだけ怖くもあった。

いろんな感情が入り交じり、興奮した状態で反射的にスマホを手に取り、
「CM見ました!!」
とメッセージを送った。

すぐに既読になり
「恥ずい」
と返信が来た。

先輩が爽やかすぎて眠気が覚めた、
全人類が先輩にひれ伏す日が近い、
とにかくヤバい、ヤバすぎる!!
ということを矢継ぎ早に送信したら、
「落ち着け」と言われた。

そして、
「急だけど、明日会えない?」
と、聞かれた。

予想していなかった展開に、いよいよ眠気は遥か彼方へ吹き飛んだ。