清掃の時間からはじまる推し活物語

先輩から、超特大ファンサをもらった俺は、冬休み中ずっと、ソワソワと落ち着かない日々を過ごしていた。

アイドルオタクの姉が、
「また、アリーナ落選したんだけど!
前は、ほぼ確でチケット取れてたのになー。
人気出すぎて、熱が冷めてきたかも。」
と、どーしようもない愚痴を言ってきた。

以前の俺だったら、
「姉貴にとっては、推しが売れない方が、都合がいいってことかよ?」
と嫌味を言ったかもしれない。

が、矢野先輩のおかげで、今の俺は超絶幸せな思いをしているため、心に余裕がある。

「まあ、推し活のモチベって、人それぞれだからね。」
と、当たり障りのないことを言って、自分の部屋へ移動した。
(これ以上、愚痴られるのは、さすがにめんどくさい)

それにしても、矢野先輩のファンミ内容を、姉貴が聞いたら、卒倒するかもしれない。

握手会とかサイン会をすっ飛ばして、おでこにキス会とか!!
絶対ありえないことが、現実に起こったのだ。

何度もあの瞬間を脳内で反芻して、頭のテッペンがむず痒くなって、「うーわー!」と叫び出しそうになる。

先輩は、今でも推しであることには違いないが、遠くから愛でるだけの存在ではなくなった。
外見だけでなく、性格も知った上で、先輩のことを好きだと思った。

とはいえ、勢いで告白したものの、リアルな恋愛経験が皆無な俺は、先輩とどう接したら良いのかわからない。

そもそも、全くと言っていいほど話したことがなかった先輩と、急速に距離が縮まったこと自体、奇跡的なことだ。
だから、俺の脳内の処理が追いついていない。

連絡先は交換したが、急に馴れ馴れしくするのは違う気がして、どうしても受け身になってしまう。

それに、転校して芸能活動をスタートさせた先輩が、心身ともに忙しいことは想像に難くない。
新しい環境に慣れるまでは、俺ごときに時間をとらせては申し訳ないと思ってしまう。


先輩からは、思い出作り(兼 Xmasファンミ)の翌日、
「八神ねこ」
というメッセージと共に、ゲーセンで取ったキーホルダーの画像が送られて来た。

それ以降は、「おはよー」と「おやすみ」だけは欠かさず送信してくれたが、俺の方は当たり障りのない返信しかできず、ギリ繋がってるだけの関係になり始めていた。

あの日のことは俺の妄想だったのかな…
と不安になりかけた頃、テレビで先輩の姿を目撃した。