喫茶店でお茶したあと、矢野先輩と俺は、若葉台公園に向かった。
この公園の中央部には、小高い丘があって街並みが一望できる。
冬の公園は風が冷たかったが、そのおかげで人が少なくて、二人でゆっくり話をするには、もってこいの場所だった。
喫茶店には、俺の両親や他の客がいたから、先輩の個人情報に関する質問は、しないようにしていた。
よく考えたら、俺は先輩のことをほとんど知らない。
だから、先輩の生年月日や血液型、都内在住で、転校先の方が通学時間が短くなることや、所属する事務所のこと等、すべてが初耳で新鮮だった。
推しについての情報を、直接本人の口から聞ける優越感といったらない。
逆に、俺に関する情報なんて何一つ面白いことはないのだが、先輩は興味津々といった様子で聞いてくれた。
この数時間で、俺の中の矢野先輩に対する印象は、だいぶ変わった。
ややもすると、冷たそうな印象を受ける端正な顔立ちに反して、いい意味で、普通の高校生の感覚を持っている。
ゲーセンで、先輩に何が欲しいか聞いた時に、簡単に取れそうなものを、さりげなく選んでくれた。
そういう気遣いも、恩着せがましくなくできるし、ほぼ接点のなかった俺とも、会話がはずむ。
烏滸がましくも、気が合うのかもしれないと錯覚しそうになったが、先輩のコミュ力がレベチなだけだ。
「八神って、彼女いるの?」
会話の途中で唐突に核心を突かれ、心臓が飛び跳ねた。
「え?!え?!え…と、いないです。」
「そうなんだ。」
「せ、先輩はどうなんですか?」
いないわけないよな、と思いつつ、動揺して、つい質問返しをしてしまった。
「オレもいないよ。」
「ええええぇえ?!もしかして今、笑うとこですか?!」
「なんでこのタイミングで、ボケなきゃならないんだよ。」
先輩はこれから芸能人になるんだから、そりゃ、いない方が理想的なんだけど。
驚きすぎて、失礼なリアクションをしてしまった。
とはいえ、体は正直で、つい口元がニヤついてしまう。
先輩、彼女いないんだ…。
俺達が通っている高校の校舎を見つけて、先輩は
「あそこにはもう、オレの居場所はないんだな。」
とつぶやいた。
その言葉で、ハッと我に返った。
そうか、俺が清掃の時間を楽しみにすることも、もうないんだ。
その事実に気付いて、急に寂しさが押し寄せてきた。
喜んだり悲しんだり、感情が忙しい。
あっという間に時間が過ぎて、気付けば日が沈みかけていた。
熟したオレンジ色の夕日が、いつか見た古い映画のワンシーンのようで、センチメンタルな気分になった。
何か…何か、先輩に伝えたいことがある気がするが、頭がグルグルして上手く話せない。
先輩が、
「そろそろ帰ろうか。今日はほんとありがとな。
いい思い出ができたよ。」
と言って立ち上がった。
幸せな時間が終わってしまう。
そして、三学期からは、先輩ともう接点がなくなってしまう。
そう思ったら、いたたまれなくなって、喉の奥に詰まっていた言葉が、突然溢れ出した。
「先輩!俺、先輩にこっそり憧れていたんですけど、遠い存在すぎて、リア恋とかでは全くなかったんです。
でも、今日、先輩と一緒に過ごして、先輩のことを知って、本気で好きになってしまいました!
すみません!」
「なんで、謝る?」
「いや、俺みたいな冴えないモブキャラが、主人公様に告白とか図々しいんで…。」
「オレにとって八神は、モブじゃないよ。」
「え?」
「オレも同じ。八神のことを思い出にしたくないって思った。」
先輩は、そう言って俺のおでこに優しくキスをしてくれた。
転校前の楽しい思い出どころか、死ぬ前に見る走馬灯入り決定の1日となった。
この公園の中央部には、小高い丘があって街並みが一望できる。
冬の公園は風が冷たかったが、そのおかげで人が少なくて、二人でゆっくり話をするには、もってこいの場所だった。
喫茶店には、俺の両親や他の客がいたから、先輩の個人情報に関する質問は、しないようにしていた。
よく考えたら、俺は先輩のことをほとんど知らない。
だから、先輩の生年月日や血液型、都内在住で、転校先の方が通学時間が短くなることや、所属する事務所のこと等、すべてが初耳で新鮮だった。
推しについての情報を、直接本人の口から聞ける優越感といったらない。
逆に、俺に関する情報なんて何一つ面白いことはないのだが、先輩は興味津々といった様子で聞いてくれた。
この数時間で、俺の中の矢野先輩に対する印象は、だいぶ変わった。
ややもすると、冷たそうな印象を受ける端正な顔立ちに反して、いい意味で、普通の高校生の感覚を持っている。
ゲーセンで、先輩に何が欲しいか聞いた時に、簡単に取れそうなものを、さりげなく選んでくれた。
そういう気遣いも、恩着せがましくなくできるし、ほぼ接点のなかった俺とも、会話がはずむ。
烏滸がましくも、気が合うのかもしれないと錯覚しそうになったが、先輩のコミュ力がレベチなだけだ。
「八神って、彼女いるの?」
会話の途中で唐突に核心を突かれ、心臓が飛び跳ねた。
「え?!え?!え…と、いないです。」
「そうなんだ。」
「せ、先輩はどうなんですか?」
いないわけないよな、と思いつつ、動揺して、つい質問返しをしてしまった。
「オレもいないよ。」
「ええええぇえ?!もしかして今、笑うとこですか?!」
「なんでこのタイミングで、ボケなきゃならないんだよ。」
先輩はこれから芸能人になるんだから、そりゃ、いない方が理想的なんだけど。
驚きすぎて、失礼なリアクションをしてしまった。
とはいえ、体は正直で、つい口元がニヤついてしまう。
先輩、彼女いないんだ…。
俺達が通っている高校の校舎を見つけて、先輩は
「あそこにはもう、オレの居場所はないんだな。」
とつぶやいた。
その言葉で、ハッと我に返った。
そうか、俺が清掃の時間を楽しみにすることも、もうないんだ。
その事実に気付いて、急に寂しさが押し寄せてきた。
喜んだり悲しんだり、感情が忙しい。
あっという間に時間が過ぎて、気付けば日が沈みかけていた。
熟したオレンジ色の夕日が、いつか見た古い映画のワンシーンのようで、センチメンタルな気分になった。
何か…何か、先輩に伝えたいことがある気がするが、頭がグルグルして上手く話せない。
先輩が、
「そろそろ帰ろうか。今日はほんとありがとな。
いい思い出ができたよ。」
と言って立ち上がった。
幸せな時間が終わってしまう。
そして、三学期からは、先輩ともう接点がなくなってしまう。
そう思ったら、いたたまれなくなって、喉の奥に詰まっていた言葉が、突然溢れ出した。
「先輩!俺、先輩にこっそり憧れていたんですけど、遠い存在すぎて、リア恋とかでは全くなかったんです。
でも、今日、先輩と一緒に過ごして、先輩のことを知って、本気で好きになってしまいました!
すみません!」
「なんで、謝る?」
「いや、俺みたいな冴えないモブキャラが、主人公様に告白とか図々しいんで…。」
「オレにとって八神は、モブじゃないよ。」
「え?」
「オレも同じ。八神のことを思い出にしたくないって思った。」
先輩は、そう言って俺のおでこに優しくキスをしてくれた。
転校前の楽しい思い出どころか、死ぬ前に見る走馬灯入り決定の1日となった。
