正反対な僕たちは

テスト返却された日の放課後。
いつものように図書室の席に座ったふたりだったが、そこには以前のような張り詰めた空気も、大量の問題集もなかった。

「はい、これ。今回のテストの解き直し。日向くんが間違えたところ、解説書いておきました」
「ありがとう!......でも、もう俺たち、ここで勉強する必要なくなっちゃたんだよね」

葵からノートを受け取りながら、翔太がぽつりと呟いた。

「......そうですね。約束は『テストが終わるまで』でしたから」

葵の指先がピタリと止まる。

テストが終われば、補修も終わり。学年トップと学年最下位(だった生徒)という無関係な関係に戻るだけ。それが当たり前で、本来あるべき姿のはずだった。

なのに、どうしてこんなにも胸が重いのだろう。

明日からは、また窓際の席から遠くの輪の中で笑う翔太を眺めるだけの毎日に戻る。あの太陽のような笑顔も、自分の隙をやさしく受け止めてくれた温かい声も、自分だけのものではなくなる。

「あのさ、一ノ瀬さん」

沈黙を破ったのは翔太だった。彼はノートをしっかりと抱え込み、少し緊張した面持ちで葵を見つめている。

「勉強会が終わりだけど......俺、これからも一ノ瀬さんと話したい。図書室じゃなくても、クラスでも、放課後でも」
「......え?」
「『学年1位の優等生』としてじゃなくてさ。一ノ瀬さんって、笑うとすごく可愛いし、実はお茶目だし......俺、一ノ瀬さんのこと、もっと知りたいんだ」

夕日が図書室の窓から差し込み、翔太の頬を茜色に染めている。それが夕日のせいなのか、彼の照れ隠しなのか、葵には分からなかった。

「......私は、別に面白みのない人間ですよ」
「そんなことない!俺にとっては、誰よりも特別だよ!」

さらりと言い放たれた「特別」という言葉に、葵の心臓が跳ね上がった。

「だから......これからは『翔太』って呼んでくれない?あ、ううん、『日向くん』じゃなくて、もうちょっと距離縮めたいなって......」

焦って頭を掻く翔太の姿を見て、葵はついに耐えきれず、ふっと小さく吹きこぼした。

「ふふっ......自分で『翔太って呼んで』って言っておいて、照れるなんて変な人」
「あ!笑った!一ノ瀬さん、今笑ったでしょ!」
「笑っていません。......分かりました、『翔太くん』」
「......っ!破壊力やば......」

照れ隠しに顔を覆う翔太と、自分の口から出た名前の響きに顔を真っ赤にする葵。

勉強会という「口実」は終わった。
けれど、ふたりの本当の関係は、ここから始めろうとしていた。