正反対な僕たちは

勉強会が始まって一週間が経った頃。

「う〜ん......あ、消しゴム......」

集中して問題を解いていた翔太が手を伸ばした拍子に、葵のペンケースのチャックに手が引っかかった。
バサッと音を立てて、ペンケースの中身がテーブル上に転がり出る。

「あ!ごめん一ノ瀬さん、手が滑って......」
「大丈夫です、自分で拾い(ますから)......」

葵が焦ったように手を伸ばしたが、一歩遅かった。
転がり出るペンや定規の隙間から、くたびれた小さなモフモフのクマのキーホルダーが落ちていたのだ。

洗練されたシンプルな葵の持ち物には、お世辞にも似合わない、可愛らしくて少しファンシーなぬいぐるみ。

(終わった.....)

葵の顔から血の気が引いた。
「学年1位のクールな優等生が、こんな子どもっぽいキーホルダーを持ち歩いている」なんて知られたら、絶対に笑われる。呆れられる、冷や汗が背中を伝った。

「あ、これ......」

翔太がキーホルダーを拾い上げる。葵は思わず目をギュッと瞑った。
馬鹿にされる覚悟をした葵の耳に届いたのは、拍子抜けするほど優しく、温かい声だった。

「これ、すごく可愛いね。......一ノ瀬さん、こういうの好きなの?」

恐る恐る目を開けると、翔太はキーホルダーを手のひらに乗せ、本当に愛おしそうに眺めていた。

「......笑わないの?」
「え?なんで?めっちゃ似合ってるよ。一ノ瀬さんっていつもキリッとしてるから、ギャップがあってなんか......すごく良い」

翔太は心の底から思ったままを言うように、ふはっと柔らかく笑った。

「返して......!」

葵は顔を真っ赤にしてキーホルダーを奪い取ると、勢いよくペンケースに押し込んだ。
心臓がうるさいくらいに脈打っている。テストで満点を取ったときよりも、ずっと胸が熱くて、息が苦しい。

(なんなの、この人......)

自分の隠していた「隙」を、バカにするどころか優しく包みこんでくれた。
葵の心のなかにあった冷たい氷が、翔太の太陽のような笑顔によって、少しずつ溶け始めていた。