正反対な僕たちは

文化祭の前日。
準備は佳境を迎え、構内は熱気に包まれていた。

「一ノ瀬さん!模擬店の食品衛生の書類、保健所に再提出だって!」
「一ノ瀬さん、買い出しの予算足りないみたいなんだけどどうしよう!?」

「大丈夫です、私がすぐ対応しますから......っ」

飛び交う怒号と焦燥の中、葵は走り回っていた。
頭がガンガンと割れるように痛む。連日の準備と、親から叩きつけられた「次の模試でSS判定を取らなければ、部活も行事もすべて辞めさせる」という冷徹な言葉。

手帳の『休むな』という殴り書きが、頭の中で何度も何度もリフレインしていた。

(休んじゃダメ。私が完璧でいなきゃ。みんなに迷惑をかけちゃダメ......っ)

「葵ちゃん、顔色悪いよ。少し休もう?」

駆け寄ってきた翔太が心配そうに肩に手を置く。けれど、追い詰められた葵はその手をパッと振り払ってしまった。

「触らないでください!......あ」

翔太の傷ついたような顔を見て、ハッと息をのむ。

「ごめんなさい、私......私、やらなきゃいけないから......っ」

ガタガタと震える手で書類を抱え直し、葵は逃げるように教室を飛び出した。後ろで翔太が「葵ちゃん!」と呼ぶ声が聞こえたが、振り返る余裕なんてなかった。