式神との婚姻で産まれる子は霊力が殊のほか高い。それくらいしか今の巴には使い道がないと実弥は言う。
「ただし契りは従属婚だ」
「従属婚……」
それは人と式神の婚姻の一種。
ただし従属というその言葉のとおり、対等な婚姻関係ではない。
契りを結べば契約で縛られ、夫となる人間の命令には逆らえないのだ。
式神の使役や通常の婚姻は式神の意思によって主の命令に抵抗することが可能だが、従属婚を結べば神格関わらず相手の手駒と成り下がる。
これは式神にとって恥辱の婚儀とも言われている。
実弥はそれを突きつけたのだ。
それも数多の妖や人間のいる衆人観衆の前で。
「お前が望むなら、安倍家との契約を断ちこのまま強奪してやる。従属婚を選ぶか、それとも陰陽領に戻るか……どうしたいか今ここで選べ」
懇願したのは巴だったが、なんたる屈辱だろう。
結局、自由も尊厳も手に入らない。
しかしそれでもあの息苦しい世界から出ていけるのなら、戻ったところで先がないのなら……外の世界に身を置きたいと考えてしまう。
巴は覚悟を決めた。
「従属婚を受け入れます……実弥様。私は巴と申します。出来損ないの騰蛇の端くれではございますが、何卒よろしくお願いいたします」
巴は瞳に張り付く涙を堪え告げると、指先を揃えて首を垂れた。
子を産むことしか価値がないと言われているなら実弥は巴の式神としての欠陥を見抜いている。
むしろ、役割を与えられたのだから婚姻の形がどうあれ良かったのだと自分を言い聞かせなければならない。
「よほど陰陽領が嫌か……分かった。もういい、頭をあげろ」
呆れを含む溜息が溢され、実弥に応じて顔を上げれば巴の額に実弥の指が添えられた。
真っ直ぐに立てた二本の指が額を押し当て、紡がれる。
「古より深き縁を解き、魂の結びを断ち我の元へ攫え」
実弥が唱えたのは、強奪という式神の所有権を横取りする最上級術式だった。
既に使役関係にある式神と術者の契りを彼らの意思とは無関係に強制解除し自分のものとする術だ。
発動には高い霊力が必要で、高位の陰陽師でなければ成功することはない。
成功したとしても快いものではないため陰陽領では禁忌と言われているものだ。
巴の額には安倍家の紋章が浮かび上がっていた。
それは実弥の術に呼応して紋章が糸を切ったように解けてゆき、蘆屋家のものに形を変える。
その瞬間、魂が引っ張られるような歪みを覚えた。
身体はここに在るのに、視界に映るもの全てが遠くなってゆく。
気持ち悪い。
違和感から始まったそれは次第に吐き気すら感じるものとなり、引き千切られれるような不快感へと急速に変化してゆく。
とても意識を保っていられるような状態ではなく、目を開けていられない。
覚えているのはここまでだ。
巴はそこで気を失った。
「ただし契りは従属婚だ」
「従属婚……」
それは人と式神の婚姻の一種。
ただし従属というその言葉のとおり、対等な婚姻関係ではない。
契りを結べば契約で縛られ、夫となる人間の命令には逆らえないのだ。
式神の使役や通常の婚姻は式神の意思によって主の命令に抵抗することが可能だが、従属婚を結べば神格関わらず相手の手駒と成り下がる。
これは式神にとって恥辱の婚儀とも言われている。
実弥はそれを突きつけたのだ。
それも数多の妖や人間のいる衆人観衆の前で。
「お前が望むなら、安倍家との契約を断ちこのまま強奪してやる。従属婚を選ぶか、それとも陰陽領に戻るか……どうしたいか今ここで選べ」
懇願したのは巴だったが、なんたる屈辱だろう。
結局、自由も尊厳も手に入らない。
しかしそれでもあの息苦しい世界から出ていけるのなら、戻ったところで先がないのなら……外の世界に身を置きたいと考えてしまう。
巴は覚悟を決めた。
「従属婚を受け入れます……実弥様。私は巴と申します。出来損ないの騰蛇の端くれではございますが、何卒よろしくお願いいたします」
巴は瞳に張り付く涙を堪え告げると、指先を揃えて首を垂れた。
子を産むことしか価値がないと言われているなら実弥は巴の式神としての欠陥を見抜いている。
むしろ、役割を与えられたのだから婚姻の形がどうあれ良かったのだと自分を言い聞かせなければならない。
「よほど陰陽領が嫌か……分かった。もういい、頭をあげろ」
呆れを含む溜息が溢され、実弥に応じて顔を上げれば巴の額に実弥の指が添えられた。
真っ直ぐに立てた二本の指が額を押し当て、紡がれる。
「古より深き縁を解き、魂の結びを断ち我の元へ攫え」
実弥が唱えたのは、強奪という式神の所有権を横取りする最上級術式だった。
既に使役関係にある式神と術者の契りを彼らの意思とは無関係に強制解除し自分のものとする術だ。
発動には高い霊力が必要で、高位の陰陽師でなければ成功することはない。
成功したとしても快いものではないため陰陽領では禁忌と言われているものだ。
巴の額には安倍家の紋章が浮かび上がっていた。
それは実弥の術に呼応して紋章が糸を切ったように解けてゆき、蘆屋家のものに形を変える。
その瞬間、魂が引っ張られるような歪みを覚えた。
身体はここに在るのに、視界に映るもの全てが遠くなってゆく。
気持ち悪い。
違和感から始まったそれは次第に吐き気すら感じるものとなり、引き千切られれるような不快感へと急速に変化してゆく。
とても意識を保っていられるような状態ではなく、目を開けていられない。
覚えているのはここまでだ。
巴はそこで気を失った。



