式神の従属婚 〜悪辣陰陽師は出来損ないの騰蛇を娶る〜

――――薪を取りに行くと、初夏の眩い朝の日差しの下にミミズが這いつくばり弱っていた。

「こんなとこに居たら死んじゃうわ」

昨夜は雨が降っていたため間違ってこんな場所まで出てきてしまったのだろうか。

昼になれば土は乾く。
夏に干からびる虫を見るのはなにも特別なことではなかったが、自らがミミズと呼ばれた直後に目にすると少し心が痛むのだ。

巴はミミズを摘み、近くで青々と茂る木の陰に離してやった。

もっと湿気た場所の土の中にでも埋めてやったら良いのだろうが、これは巴の願いの現れでもあった。

「あなたもいつか蛇になれるといいわね」

真っ直ぐに進み続ければ蛇となり、そして昇天すれば青龍となる。
まだ出来損ないの烙印を押される前の幼体の時期に聞いた言葉だ。

もし騰蛇として認められればもっと自由に生きられるのだろうか。

陰陽領は息苦しい。

はぁ、と溜息をこぼし巴は薪を抱え小走りで炊事場へと急いだ。

「お待たせして申し訳ありませ……――――」

「力があるって言ってもせいぜい男手二人ぐらいじゃないか?食事も用足しもないからいいけどさぁ」

「翔期様も何を考えてらっしゃるんだろうね、とっとと生まれ変わらせれば良いのに……」

「苛ついてるからって馬鹿言わないの。あたしらが楽できるのはミミズがいるからじゃない。さっさと手ぇ動かしな」

「そりゃそうか!」

炊事場からどっと笑い声が溢れる赤裸々な悪口に、巴の足は止まった。

――まただ。こんなこと、どうってことない。なにも感じるな。

薪を抱える腕は震え、情けなさと怒りが込み上がるのを堪えて心が丸くなるのを待つ。

邪を積もらせ荒ぶれば邪神と化して陰陽師達に祓われる。

地べたを這いつくばって生きてきた挙句、無碍に滅されるなど式神として恥辱でしかない。

巴は一握りの矜持を守るべく、深く長い息を吐いた。

そうして表情を消して彼女らに声をかけるのだ。

「薪を用意しましたのでこちらに置かせていただきます」

はっきりと、そして存在を示すように大きな声で。

悪口を言っていた下女らは双眸を見開き罰が悪いといわんばかりの顔をする。

巴は毅然とそれを見て、出入り口のそばに重ね置き一礼して足早に去った。