式神の従属婚 〜悪辣陰陽師は出来損ないの騰蛇を娶る〜

巴は翔期を押さえつけたまま固まった。
この男は、巴を使役するために六限鏡に霊力を封じたらしい。

そして代償として呪った張本人の魂の欠片は閉じ込められている。

外の飛翔が冷酷なのは情念という念をここに閉じ込められているからで、目の前にいる彼の一部は外で何があったか知らないのだろう。

「しかし美しいな……こう育つだろうとずっと思っていた……外の私が羨ましいよ。お前は私が使役したんだろう?助けに来てくれたんだよな」

狂気にも似た感情を向けられ、巴は眉を顰めた。

「……私はあなたに使役され、ミミズと呼ばれていました。しかし今は実弥様にお仕えしている身。ここに来たのは実弥様を追ってのことです」

「まさか、そんな….…こいつは芦屋家だぞっ……」

「陰陽領に居たころよりも良くしていただいています。それに正直、あなたの事などよく知りません」

陰陽領での辛い年月、翔期の存在などあってなかった。
それこそ使役されていることを忘れるぐらいに。

書物で読んだ六限鏡の特性――呪った本人も気付かないというのは、こういうことなのだろう。

念を封じられ、使役したいという目的を果たしたことで巴への関心が消えたのだ。

満願成就と同時に代償を払う、なんて恐ろしい呪具だろう。

翔期は顔面蒼白で巴を見る。そこに実弥が静かに歩み寄り、その首元に刃を突きつけた。

「……分不相応だと認めろ。自分の格が低いからと相手を引き摺り下ろした姑息なお前は、こいつに相応しくない」

「ちがうっ……!私はただ、一目惚れだったんだ!!」

「気持ち悪いな。巴、このまま押さえておけ」

吐き捨てるように言った実弥は明らかに怒りを滲ませていた。

その姿に巴は生唾を飲み下し、激しく手足をばたつかせる翔期の拘束を強め頷いた。

少し可哀想にも感じたが、しかし一方で実弥の言葉に歓喜していた自分が居る。
なぜならば。

「この呪具内は術が使えねぇ……ネズミのようにちょこまか逃げられ面倒だったんだ。助かる」

助かる、そう言ったのだ。
この男がついに。

「ここでお前の情念は滅してやる」

刀を振り上げ一瞬のうちに首を刎ねた。

斬られたのに血は出ない。
力強い抵抗がなくなり頭が転がると同時に翔期の身体は消滅した。

巴は恐る恐る口を開いた。

「死んだのですか……?」

「いや。本体は生きている。情念だけを滅したからな……あれは今後一切、誰も愛せないだろう」

害のある念は滅して当然、そう実弥は言って刀を鞘に収めた。
翔期を滅したと同時に、鏡が割れた音が響く。

気づけば山中の村の景色が広がっていて、元の世界に戻ってきたのだと分かった。

しかし安堵する間もなく空は怪しい雲が渦巻いている。

そして腹の底に重く響く雷鳴があった。

「なんて強い邪気……」
「黒雲に大蛇か。やはり邪神になったようだな」