式神の従属婚 〜悪辣陰陽師は出来損ないの騰蛇を娶る〜

いつの日か子を産むため、そのためだけに巴は実弥に労わられている。

神気の釣り合いを整えるため義務的に抱きしめられて眠り、市の妖達からは丁寧な扱いを受ける日々。

心身共に弱っていた当初こそ、その扱われ方に”拒絶がない”というだけで安堵したが、慣れてくると居心地が良いものではなかった。

なんせ何の仕事もないのだ。

陰陽領に居た頃は睡眠を削っての働きづめだった。
流石にあれほどに働きたいとは思わないが、何も返せていないまま存在するというのは居心地が悪い。

使役される身ならば何か役に立ちたい。そして主人となる人間のことは少しでも知っておくのが礼儀ではないだろうか。

用事はないか、自分に出来ることはあるか、命じてくれれば何でもする。

召喚時に何でもするからと懇願したのは自分なのだから、せめて行動で示したい。巴はそう考えて実弥に声をかけるが「要らん」と突っぱねられてしまう。

真人や屋敷の者にいたっては「奥方様は居てくれるだけで有難いのです」と恐縮されるため、無理に仕事を貰おうとするのは止めた。

加えて、実弥からは巴の身に呪いがかけられていたという一件について詳しい話を聞こうにも有耶無耶にされたままで、実は多くを教えてもらえていない。

「また縁が繋がる可能性がある。危うい状態だ」とだけ言われてそれっきり。

寝所は必ず共にしているが、実弥は必要なことしか話さないため巴も次第に口数が減った。
守られていることは伝わっているので煩わしく思われたくなかったのだ。

薄情な式神でないと証明するために役立ちたい。

絶対に裏切らないと分からせてやろうと始めこそ息巻いていたが、しかし何もできず手詰まりの日々だった。

だったらせめてと、書物を読むことにした。
実弥の屋敷は豊富な書物がある。

教えてもらえないなら探るしかないと考え、実弥のことを他の妖や蘆屋家一派の者に尋ねて調べ、実弥が呪具を集めていることをが分かったからだ。

それらに関する書物を優先的に読んで学び過ごしていた。
一度だけ実弥に覗き込まれたことがあったが咎められることはなかった。
その時は珍しくも一瞬だけ穏やかな笑みを向けられ、思わずぎょっとしたほどだが、特に何も言われないので勝手にしている。

傍目から見れば順風満帆な穏やかな時間、といったところだろう。

しかし季節が移り、最近の巴は寝所での過ごし方について考えなおさねばならないと頭を抱えていた。