狐に嫁入り

 翌日。

「おいお前」

「向こうの片付けに行ってまいります」



 更に翌日。

「無視してんじゃねぇよ」

「清掃の時間ですので」



 その更に翌日。

「いい加減に――」

「お疲れ様でした」



 日を改めようと、場所をかえようと、眞弥は初のもとへとやって来ては、鋭い眼光を向けるようになった。
 咎められるのだろうか。屋敷から追放されるだろうか。
 そう思うと怖くはあるが、自分の蒔いた種だから仕方ないとは思う。
 けれどもしそうしようと近付いているのなら、やり方なんて幾らでもあるだろう。
 呼び止めるでなく一方的に告げる。従者を使う。お触れを出す。
 そうしないことの気持ち悪さ故、初は眞弥の追随を避け続けた。



「なぁ――」

「何なんですか、もう…!」

 耐えきれず、振り返った。
 其方では眞弥が、ニヤニヤと浮ついた顔をしていた。

「……何か用でもあるんですか?」

「いや、今なくなったところだ」

「はぁ…!? 何なんですか、本当に…!」

 あった用がなくなった?
 振り返らないかと揶揄われていたのだろうか?
 分からない。
 この男が何を考えているのか、まるで分からない。

「あの、もう良いです? 仕事があるんですけど」

「――おう。もういいぞ、行け」

「っ……! お疲れ様でした…!」

 半ば自棄に言葉だけ返して、初は眞弥に背を向ける。
 この男の一挙手一投足、全てが癇に障る。

 限界だ。
 願わくばこれ以上、関わり合いにならないことを。