夏祭り、君に会えますように

「ただいまー、おばあちゃん」
「おかえりー、みのり」
「……暖翔(だんと)には言ってないんだけど」
「はあ!?お、俺には言ってないの?」
「私はおばあちゃんに言ってるの」
 従兄の姫野(ひめの) 暖翔(だんと)
 家は遠方にあって、この家の近くにある大学に通う為におばあちゃんの家で暮らしている。
 暖翔(だんと)のお母さん・香梨(かおり)さんは、私のお母さん・詩織(しおり)の姉だ。
「おかえり、みのちゃん」
「ただいま、おばあちゃん」
「ねえ、なんで俺には言ってくれないの!?」
「……タダイマ、ダント」
「なんでカタコトなの!?」
 これが、私たちの日常だった。
「そういえば、どっかで母さんたちが遊びに来るらしい。詳しい日程はまた後日なんだって」
「そうなんだ」
 香梨(かおり)さんはファッションデザイナー。
 いつも忙しそうだった。
「じゃあ、俺、遊びに行ってくるわ」
「うん、イッテラッシャイ」
「だからなんでカタコトなの!?……ばあちゃん、行ってきまーす」
「いってらっしゃい、だんくん」
 おばあちゃんは、私がお母さんを亡くしてから、ずっと世話をしてくれている。
 私の恩人だ。
「みのちゃん。今日は、ケーキ買ってきたの。どれが良い?ショートケーキと、チーズケーキと、フルーツタルト」
「フルーツタルトかな。おばあちゃんは、チーズケーキ?」
「もちろん。チョコケーキと迷ったんだけど、とっても美味しそうだったから」
 おばあちゃんは、とても優しい。
 いつもニコニコしている。
「じゃあ、着替えて来るね」
「はーい。おばあちゃん、食べずに待ってるから、早く戻って来てね」
「分かってるよー」
 階段を駆け上がる。
 私の部屋は、いたって普通の部屋だ。
 特に変わっているところはない。
 制服のブレザーをウォークインクローゼットの中にかける。
 スカートも、しわがつかないように、ブレザーの横にかける。
 ……クローゼットの奥に仕舞われている箱の中には、七夕の笹がしまってある。
 笹といっても、とても小さいものだ。
 テーブルの上に置けるくらいの。
 おばあちゃんは、毎年、七夕の時期になると、笹を飾っていた。
 でも、あの事件の後、飾らなくなった。
 ……あの事件は、七夕の日に起こったから。
 あの事件以来、私が七夕を嫌うようになったから。
「戻ったよー。食べよっか」
「うん。そうだね」
 久しぶりに食べたフルーツタルトは、とても美味しかった。