「いってくる」
「いってらっしゃいませ……」
幸い、伊吹が負った怪我は軽傷で、治癒の神の加護を持つ鎮守衆からの手当てを受けたこともあり、数日で勤務に戻ることが出来た。
勤務復帰の日の夕刻。
旭は家の前まで見送りに出る。行動も、かける言葉も何も変わっていない。
日常に、職場復帰という喜ばしい出来事が重なったというのに、伊吹の表情も旭の表情も晴れない。
どちらも、その理由を尋ねることなく、ぎこちなく言葉を交わし合う。
尋ねるまでもない。理由は、お互いが痛い程にわかっている。
(旦那様は、ひょっとしたら、愛するつもりがないと言ったことを後悔されているのかもしれない)
駅へと向かう背中が、どことなく寂し気で小さく見えるのは、気まずいからだろうか。
旭は胸を痛めながら、その背中が見えなくなるまで見つめるのだった。
(でも、私には、誰かを愛するなんて、できるはずがないもの)
契約結婚という伊吹の言葉に安心していたからこそ、旭は彼の厚意や気遣いに甘えることが出来た。
だと言うのに、今更それが愛だと言われても、旭にはどうすることもできない。
旭もまた、夫を愛するつもりなんてなかったのだ。
(愛……)
伊吹から抱擁を受けた時のことを、旭は鮮明に思い出せる。
熱い体温。脈打つ心臓。力強い腕。──応えるように高鳴る己の胸も。
そのたびに旭の胸を襲う、痛い程の疼き。
旭は、その痛みの正体を考えながらも拒絶する。そうでなければ、旭は自分でいられない。
だが、拒絶しつければ、伊吹はどう思うだろうか。
怒るのだろうか。呆れるだろうか。悲しむのだろうか。──やがて、旭の顔を見たくないと思うかもしれない。
そのことを考えると、旭は胸を掻きむしりたくなるのだった。
(旦那様は、私をもうお傍においてくれないかもしれない)
やっと見つけた自分の居場所を離れるのが悲しい──いや、違う!
(旦那様と離れたくない──!)
旭はぎゅっと自分も胸の前で、白くなるほど手を握りしめた。
願う度に、脳裏を過る母の記憶。今際の際の声、手の熱さ。亡骸の冷たさ──そして幽鬼となり、彷徨う姿。
(でも、認められない……認めてはいけない。かあさまのようには、なりたくない)
この期に及んで自分を守ることしか考えられない自分が、情けない。情けないと思うのに、足を踏み出すことが出来ない。
伊吹の背中が見えなくなっても、旭は縫い留められたようにその場を動くことが出来なかった。
不意に小さな地鳴りのような音が耳に届き、旭はようやく俯けていた顔を上げた。鼻を刺す臭いが漂ってくる。
(自動車だ……)
お上や一部の富豪のみが手にできるという、最新の移動手段だ。大通りを時折走っているのを、旭も見たことがある。
黒塗りの艶やかな車体を見送るつもりで門の際まで寄った旭だったが、予想に反して車は、榊家の前に止まった。
ぽかんと佇む旭の前で、運転席から男が降り、座席の扉を開いた。
座席から降り立ったのは、凛々しいご婦人だった。車を乗り降りする所作にすら隙が無い程に品があった。
「──ねぇ、おまえ」
藪から棒に婦人が口を開く。圧倒されて返事のできない旭に、婦人はその形のいい眉をぎゅっと寄せた。
「あらやだ。挨拶も無しだなんて、使用人の躾もなってないのね。ここの女主人はどこ?」
その言葉に、旭は赤面した。
(駄目、しっかりしないと)
すぐに自らを励まし、姿勢を正すのだった。
(契約妻だからこそ役目を果たして見せると言ったのは、私自身でしょう?)
契約が終わっていない以上、旭には責任がある。
来客の正体も目的もわからないが、女主人としてこのまま引き下がるわけにはいかなかった。
「どちらさまでしょうか?」
「主人の母親もわからないの?」
突き放すような言葉に、旭は目を見開いた。では、この人が、伊吹の母親なのだ。
「失礼いたしました……。お初にお目にかかります」
(確かお名前は……絢子様)
旭は、気圧されそうになりながらも精一杯の礼を取った。
「私が、榊伊吹の妻です」
「──嘘でしょう?」
絢子は、改めて旭を不躾に眺めた。
「こんなのが? 冗談じゃない!」
頭の先から爪先まで。しかと値踏みして、そう悲鳴じみた声を上げた。
「わざわざ格下から嫁を取ったのだもの、せめて美しいければ見栄えがするというものなのに、この程度じゃあ大損よ!」
頭に響く金切り声だった。あまりに勢いに、旭は、茫然と義母からの罵倒を浴びるしかなかった。
「一体、あなた、どういう手を使ったの」
「え……?」
「どうせ人には言えない方法を使ったんでしょう。そうでなきゃ、あなたみたいなのがあの子と結婚できるものですか!」
伊吹がわざわざ立花家から妻を求めた理由が、この義母なのか。
旭は、彼女を目の当たりにして納得してしまうのだった。
人の言い分を聞く気もない。自分が正しいと思い、相手にまるで配慮せず、自分の理屈だけを振り回す。
確かに、この様子であれば伊吹が説得するより強行突破を選択してしまうのもわかる。
「あの子には、爵位のあるお家柄からも同じ五行の加護持ちの家からも縁談はあるの! それを、どうして……」
なら、旭が今ここで、伊吹の妻としてすべきことは、この義母の癇癪を浴びることなのだろう。
(家柄がよくないのも、誰もが納得する美女でないのも本当だもの。今更そんなことで傷つくこともないわ)
旭をなじることでこの義母が満足して、伊吹から矛先が逸れるのであればそれでいいではないか。
旭はそう思い直すのだった。
「好きにさせたのがよくなかったかしら。あの子程の立場の者がいつまでも幽鬼討伐の前線に出なくてもいいのに」
だが、旭の決意も虚しく、絢子の癇癪は伊吹の方へと向かってしまう。
「榊家の当主になるという自覚が足りないのよ。おまけに怪我までして。些末なことなど、放っておけばよいのに」
(些末なこと……?)
そんなはずはない。
幽鬼を放置すれば、人は惑う。やがて鬼の本性をむき出しにした幽鬼に襲われる。
それを食い止めるために力を尽くすことが、些細な事と片づけられるはずがない。
「恐ろしい二つ名まで。あれでは縁組みに障りがあるというもの。せめて英雄とでも呼ばれてくれれば、栄えもあるというのに」
その言い分に、旭は愕然とした。
幽鬼は、恐ろしい。
ただ、人を襲うから恐ろしいのではない。死んだ誰かの姿をとるから、なお恐ろしいのだ。
幽鬼とわかっていても、人の姿をしていれば斬るのを躊躇うだろうし、ましてやそれが知った人間であれば足が竦む。
死んだはずの愛しい人の姿を見て、我を失う人もいるかもしれない。
旭もそうだった。冷静ではいられなかった。旭とて、仮にも立花家の出身。知識として知っていたのに。
(どれほど、自分を律して……縛り付けて……)
そんな状況で、伊吹が『同族狩り』の二つ名を得るまでに、どれほどの研鑽と葛藤が、忍耐が必要だったのか。
(私のことも、ずっと気遣ってくださった。あれほど、お優しい方なのに──!)
伊吹が、人の形をした幽鬼を切ることに胸を痛めないはずがない。
それを、下らないことのようにこき下ろし、文句をつけるなど、言語道断だった。
「榊家の人間としての自覚は十分にお持ちです」
旭はとうとう口を開いた。この期に及んで、黙ったままではいられなかった。
「十分にお持ちだからこそ、私を妻に望んだのです!」
同じ退幽鬼の家門にいながら、その程度のことすら想像できない。
この人をのさばらせないために、自分の縁まで犠牲にしようとした。
そして、旭を妻にした。
「幽鬼討伐がどれほど酷な役目か……。旦那様にどれほどの人が助けられたか……。仮にも榊家の奥方ともあろう方が、どうしてそんなことすらわからないのですか!」
「お前に何が分かるの! 所詮立花家程度の娘に! 五行の加護を持つ榊家がどれほどの……」
「わかりません! 今の私には──でも!」
五行の加護ともなれば、退幽鬼の家門の筆頭とも呼ばれる。もちろん、旭の想像のできない苦労もあるだろう。
その内側のことまで、今の旭に知ることはできない。
「あなたが旦那様にとって良くないということだけは、わかります!」
旭の言葉に、絢子は一瞬何を言われたのかわからないような表情をした。
しかし、すぐに自分がひどく侮辱されたのだと気づいた。白い肌が、朱に染まる。
「この──!」
「お引き取りください」
言い切った旭の頬に、掌が飛んでくる。
振り上げた腕がしなる様子を見ても、旭は避けようともしなかった。この程度で揺らいでたまるものか。その一心だった。
パン、と乾いた音と共に視界が揺れた。
旭は、傾いた視界をゆっくりと戻す。怒りのあまり、肩で息をする絢子を見据えた。
檄する絢子に、旭は冷たく言い放つ。
「旦那様の妻として、あなたをこの家に入れるわけにはまいりません。どうか、お引き取りください」
「言わせておけば──!」
その細い腕が再び振り上げられた。
旭はひたと絢子を見据え、二度目の平手打ちが飛んでくるのを覚悟した。
「何をしている──!」
だが、その掌が旭に届くより前に、後ろから掴まれ宙で止まった。
「旦那様──」
出勤したはずの伊吹の姿が、そこにあった。
「いってらっしゃいませ……」
幸い、伊吹が負った怪我は軽傷で、治癒の神の加護を持つ鎮守衆からの手当てを受けたこともあり、数日で勤務に戻ることが出来た。
勤務復帰の日の夕刻。
旭は家の前まで見送りに出る。行動も、かける言葉も何も変わっていない。
日常に、職場復帰という喜ばしい出来事が重なったというのに、伊吹の表情も旭の表情も晴れない。
どちらも、その理由を尋ねることなく、ぎこちなく言葉を交わし合う。
尋ねるまでもない。理由は、お互いが痛い程にわかっている。
(旦那様は、ひょっとしたら、愛するつもりがないと言ったことを後悔されているのかもしれない)
駅へと向かう背中が、どことなく寂し気で小さく見えるのは、気まずいからだろうか。
旭は胸を痛めながら、その背中が見えなくなるまで見つめるのだった。
(でも、私には、誰かを愛するなんて、できるはずがないもの)
契約結婚という伊吹の言葉に安心していたからこそ、旭は彼の厚意や気遣いに甘えることが出来た。
だと言うのに、今更それが愛だと言われても、旭にはどうすることもできない。
旭もまた、夫を愛するつもりなんてなかったのだ。
(愛……)
伊吹から抱擁を受けた時のことを、旭は鮮明に思い出せる。
熱い体温。脈打つ心臓。力強い腕。──応えるように高鳴る己の胸も。
そのたびに旭の胸を襲う、痛い程の疼き。
旭は、その痛みの正体を考えながらも拒絶する。そうでなければ、旭は自分でいられない。
だが、拒絶しつければ、伊吹はどう思うだろうか。
怒るのだろうか。呆れるだろうか。悲しむのだろうか。──やがて、旭の顔を見たくないと思うかもしれない。
そのことを考えると、旭は胸を掻きむしりたくなるのだった。
(旦那様は、私をもうお傍においてくれないかもしれない)
やっと見つけた自分の居場所を離れるのが悲しい──いや、違う!
(旦那様と離れたくない──!)
旭はぎゅっと自分も胸の前で、白くなるほど手を握りしめた。
願う度に、脳裏を過る母の記憶。今際の際の声、手の熱さ。亡骸の冷たさ──そして幽鬼となり、彷徨う姿。
(でも、認められない……認めてはいけない。かあさまのようには、なりたくない)
この期に及んで自分を守ることしか考えられない自分が、情けない。情けないと思うのに、足を踏み出すことが出来ない。
伊吹の背中が見えなくなっても、旭は縫い留められたようにその場を動くことが出来なかった。
不意に小さな地鳴りのような音が耳に届き、旭はようやく俯けていた顔を上げた。鼻を刺す臭いが漂ってくる。
(自動車だ……)
お上や一部の富豪のみが手にできるという、最新の移動手段だ。大通りを時折走っているのを、旭も見たことがある。
黒塗りの艶やかな車体を見送るつもりで門の際まで寄った旭だったが、予想に反して車は、榊家の前に止まった。
ぽかんと佇む旭の前で、運転席から男が降り、座席の扉を開いた。
座席から降り立ったのは、凛々しいご婦人だった。車を乗り降りする所作にすら隙が無い程に品があった。
「──ねぇ、おまえ」
藪から棒に婦人が口を開く。圧倒されて返事のできない旭に、婦人はその形のいい眉をぎゅっと寄せた。
「あらやだ。挨拶も無しだなんて、使用人の躾もなってないのね。ここの女主人はどこ?」
その言葉に、旭は赤面した。
(駄目、しっかりしないと)
すぐに自らを励まし、姿勢を正すのだった。
(契約妻だからこそ役目を果たして見せると言ったのは、私自身でしょう?)
契約が終わっていない以上、旭には責任がある。
来客の正体も目的もわからないが、女主人としてこのまま引き下がるわけにはいかなかった。
「どちらさまでしょうか?」
「主人の母親もわからないの?」
突き放すような言葉に、旭は目を見開いた。では、この人が、伊吹の母親なのだ。
「失礼いたしました……。お初にお目にかかります」
(確かお名前は……絢子様)
旭は、気圧されそうになりながらも精一杯の礼を取った。
「私が、榊伊吹の妻です」
「──嘘でしょう?」
絢子は、改めて旭を不躾に眺めた。
「こんなのが? 冗談じゃない!」
頭の先から爪先まで。しかと値踏みして、そう悲鳴じみた声を上げた。
「わざわざ格下から嫁を取ったのだもの、せめて美しいければ見栄えがするというものなのに、この程度じゃあ大損よ!」
頭に響く金切り声だった。あまりに勢いに、旭は、茫然と義母からの罵倒を浴びるしかなかった。
「一体、あなた、どういう手を使ったの」
「え……?」
「どうせ人には言えない方法を使ったんでしょう。そうでなきゃ、あなたみたいなのがあの子と結婚できるものですか!」
伊吹がわざわざ立花家から妻を求めた理由が、この義母なのか。
旭は、彼女を目の当たりにして納得してしまうのだった。
人の言い分を聞く気もない。自分が正しいと思い、相手にまるで配慮せず、自分の理屈だけを振り回す。
確かに、この様子であれば伊吹が説得するより強行突破を選択してしまうのもわかる。
「あの子には、爵位のあるお家柄からも同じ五行の加護持ちの家からも縁談はあるの! それを、どうして……」
なら、旭が今ここで、伊吹の妻としてすべきことは、この義母の癇癪を浴びることなのだろう。
(家柄がよくないのも、誰もが納得する美女でないのも本当だもの。今更そんなことで傷つくこともないわ)
旭をなじることでこの義母が満足して、伊吹から矛先が逸れるのであればそれでいいではないか。
旭はそう思い直すのだった。
「好きにさせたのがよくなかったかしら。あの子程の立場の者がいつまでも幽鬼討伐の前線に出なくてもいいのに」
だが、旭の決意も虚しく、絢子の癇癪は伊吹の方へと向かってしまう。
「榊家の当主になるという自覚が足りないのよ。おまけに怪我までして。些末なことなど、放っておけばよいのに」
(些末なこと……?)
そんなはずはない。
幽鬼を放置すれば、人は惑う。やがて鬼の本性をむき出しにした幽鬼に襲われる。
それを食い止めるために力を尽くすことが、些細な事と片づけられるはずがない。
「恐ろしい二つ名まで。あれでは縁組みに障りがあるというもの。せめて英雄とでも呼ばれてくれれば、栄えもあるというのに」
その言い分に、旭は愕然とした。
幽鬼は、恐ろしい。
ただ、人を襲うから恐ろしいのではない。死んだ誰かの姿をとるから、なお恐ろしいのだ。
幽鬼とわかっていても、人の姿をしていれば斬るのを躊躇うだろうし、ましてやそれが知った人間であれば足が竦む。
死んだはずの愛しい人の姿を見て、我を失う人もいるかもしれない。
旭もそうだった。冷静ではいられなかった。旭とて、仮にも立花家の出身。知識として知っていたのに。
(どれほど、自分を律して……縛り付けて……)
そんな状況で、伊吹が『同族狩り』の二つ名を得るまでに、どれほどの研鑽と葛藤が、忍耐が必要だったのか。
(私のことも、ずっと気遣ってくださった。あれほど、お優しい方なのに──!)
伊吹が、人の形をした幽鬼を切ることに胸を痛めないはずがない。
それを、下らないことのようにこき下ろし、文句をつけるなど、言語道断だった。
「榊家の人間としての自覚は十分にお持ちです」
旭はとうとう口を開いた。この期に及んで、黙ったままではいられなかった。
「十分にお持ちだからこそ、私を妻に望んだのです!」
同じ退幽鬼の家門にいながら、その程度のことすら想像できない。
この人をのさばらせないために、自分の縁まで犠牲にしようとした。
そして、旭を妻にした。
「幽鬼討伐がどれほど酷な役目か……。旦那様にどれほどの人が助けられたか……。仮にも榊家の奥方ともあろう方が、どうしてそんなことすらわからないのですか!」
「お前に何が分かるの! 所詮立花家程度の娘に! 五行の加護を持つ榊家がどれほどの……」
「わかりません! 今の私には──でも!」
五行の加護ともなれば、退幽鬼の家門の筆頭とも呼ばれる。もちろん、旭の想像のできない苦労もあるだろう。
その内側のことまで、今の旭に知ることはできない。
「あなたが旦那様にとって良くないということだけは、わかります!」
旭の言葉に、絢子は一瞬何を言われたのかわからないような表情をした。
しかし、すぐに自分がひどく侮辱されたのだと気づいた。白い肌が、朱に染まる。
「この──!」
「お引き取りください」
言い切った旭の頬に、掌が飛んでくる。
振り上げた腕がしなる様子を見ても、旭は避けようともしなかった。この程度で揺らいでたまるものか。その一心だった。
パン、と乾いた音と共に視界が揺れた。
旭は、傾いた視界をゆっくりと戻す。怒りのあまり、肩で息をする絢子を見据えた。
檄する絢子に、旭は冷たく言い放つ。
「旦那様の妻として、あなたをこの家に入れるわけにはまいりません。どうか、お引き取りください」
「言わせておけば──!」
その細い腕が再び振り上げられた。
旭はひたと絢子を見据え、二度目の平手打ちが飛んでくるのを覚悟した。
「何をしている──!」
だが、その掌が旭に届くより前に、後ろから掴まれ宙で止まった。
「旦那様──」
出勤したはずの伊吹の姿が、そこにあった。

