鬼狩り様の契約妻~君を愛するつもりはないと言った旦那様、私もそのつもりですのでご心配なく~

「結婚したからと言って、君を愛することはない」

 榊伊吹(さかき いぶき)は、目の前の女──立花旭(たちばな あさひ)に告げた。
 旭の大きな瞳が揺らいだように見えた。 

(あぁ、きっと困惑するに違いない……)

 同じ退幽鬼(ゆうき)の家門でも、格上である榊家からの婚姻の申し込みを受けて嫁いできたのだ。
 どこで見いだされたのか、と胸を高鳴らせてやって来たのかもしれない。
 あるいは、同族狩り──鬼を狩ること当に鬼の如く、と評される伊吹の噂を聞いて恐れながらやって来たのか。

(どちらにせよ、こう言われることが嬉しいはずはない)

 僅かながらに自責の念が湧き上がってくるのを堪え、伊吹は一息で言い切る。

「約束通り、榊家から立花家へ援助を行う。それを引き換えに、君は俺の妻となる。今更妻など欲しいと思わないが、形ばかりでも妻がいた方が世間の信用も得られると言うものだ」

 彼女は、言葉の礫を浴びながら目を丸くしていた。
 その薄い胸が軽く上下する。

 泣くか。詰るか。縋るか。

 身構えた伊吹に、予想外に淡々とした言葉が向けられる。

「──つまり、この結婚は契約、と仰りたいのですね」
「あ、あぁ」

 旭の声に、揺らぎはなかった。伊吹は僅かにたじろいだ。

「承知いたしました……。どうぞお任せください!」
(は?) 

 なぜか旭は自信満々だった。自らの胸に手をあて、ぐっと反らせて見せた。
 いかにも頼もしそうな仕草だったが、小柄なものだから小動物が勇んでいる様にも似ている。

「この立花旭。全身全霊を持って、妻の役割を果たして見せましょう」

 迷うことなくそう言い切った旭に、伊吹は度肝を抜かれるのだった。

「え?」
「はい?」

 思っていた反応と違う。
 思わずこぼした声に、何か問題でもあるのかと問いかける声が重なった。
 こうして、榊家次男、榊伊吹は予想外の事態に見舞われながらも花嫁を迎えたのである。