晨星、黎明に駆けて

それから私たちは少し話をして、空が深い黒色になる前には家に帰った。
みゆとは、いくつか約束をした。
もし万が一のことがあっても、責任を取るのは私。しかし、みゆがそばにいるにも関わらず起こってしまったものについては、みゆ自身が責任を負わせてほしいと私に頼んできた。
また、関わってもよいのはみゆの信頼が厚い人だけ。ゆのあくんは関わってもよいらしいが、まだ少しだけ私に警戒心があるようだった。
そして、みゆが協力してほしいと言ったものについても、教えてもらった。
どうやら、みゆはほしかげ界隈の人々を独自で支援したり、治安の悪化を防ぐ取り組みを行っているらしい。
例えば、初めて姿を現した少年少女に自ら話しかけに行き、悪い大人が近づいてくる前に保護したり。
体調が優れなかったり、十分な食事をとることができない人々に自腹で軽食を買ってあげたり。
大人の支援ボランティアの方々がいらっしゃる場所へ案内したりしているそうだ。
やることは時と場合により様々で、みゆ曰く「あたしのお節介が過ぎてるだけ」だそうだけれど。
見ていればわかるとのことなので、どうしてそういった取り組みを始めたのかなどは、あまり詳しく説明されなかった。
私はそういったみゆの後ろをついて回って、ほしかげ界隈でないからこその考え方の力を貸してあげればいいらしい。
両親にもそのことを話したが、案の定大反対されてしまった。
それでも諦めることができない私は、次の日に無理やりみゆを連れてきて、私の両親に会わせた。
強引なやり方が過ぎるかもしれないが、私には、そうしてでもみゆに協力したい気持ちがあった。
協力していくうちに、みゆの抱えるものを、少しでもわかってあげられたら。
そんな私に気がついたお母さんが、一週間に二回だけ、それも夜の八時までね、と言って、お父さんを説得し、許可してくれた。
毎週水曜日と金曜日。危険性の高い休日は、何があっても避ける。
ルールを作って、叶わないかと思った両親の承諾を得て。
私は今週から、正式に、ほしかげ界隈を歩き回ってみる。
きっと色々な人がいる。少しだけ怖いと感じるときもある。
それでも、みゆと一緒なら、きっと大丈夫。

水曜日。一駅手前で、電車を降りる。
するすると、流れるように星霜ビルの広場に向かって歩く。
みゆはいつもの場所に、ゆのあくんと座っていた。その隣に、もう一人の女の子が目に入る。初めて見る人だ。
私は三人のもとへ駆け足で向かった。
すると、女の子がにこっと笑って、
「はじめまして!」
と手を振って言った。
その女の子は地雷系ファッションを身にまとっており、長いまつ毛と整った顔立ちが印象的だった。
どことなく、ゆのあくんに似ているような。
「はじめまして!えっと、みゆ、これは…」
「今日はあたしの仲間を紹介しようと思って、連れてきたの」
仲間、ということは、みゆが信頼している人のことだ。みゆの隣に腰をかける。
少しだけ不安もある。それでも、ゆのあくんたちのことを知りたいと思うのが不思議だった。
「さな、まずはどういうことでここに来たのか教えてあげて」
みゆにそう言われ、私は口を開いた。
「私は、さなって言います。制服でわかるかもしれないけど、高校二年生です」
みゆからは、フルネームは伝えないこと、通っている学校を自ら言わないことを守ってほしいと言われている。
それでも、みゆがいいと言った人には伝えても問題ないらしい。
ひとまずこれくらい、というところまで話し終えると、女の子が、ぱっと笑顔になって私を指差した。
「その制服って、白妙だよね!確かバスケ部強いんじゃなかったっけ」
「うん、実は白妙なの。よくわかったね…!」
うちは人脈広いから、と自慢げに言う姿が、どこか幼く見えた。
「じゃあ、二人もさなに軽く自己紹介してあげて」
みゆの言葉に対して、はーい、というゆるい声が聞こえる。ゆのあくんと目が合った。
「改めて、ボクはゆのあ。あ、一応女子ね」
「えっ、やっぱり女の子!?私ずっとゆのあくんって言ってたよ!?」
「呼び方なんてどーでもいいよ。もー、いちいちうるさい…」
ゆのあくんはすぐに頬杖をついて、むすっとした顔でため息を吐いてしまった。
まあまあ、となだめる女の子。この二人、とても相性がいいように見える。
どうやらゆのあくんは、「中性的な女の子」らしい。
とても騒がしいような場所は苦手で、静かな場所の方が好きだという。
明らかに私たちよりも年下に見えたが、年齢までは教えてくれなかった。
「で、こっちがるのあ。ボクの双子の妹」
「双子!?」
私は思わず大きな声を出してしまった。まさか双子だったなんて。
確かに、系統が違うファッション、水色とピンクという正反対の身にまとう色。
その中に、よく似た顔つきや背丈が隠れている。
「えへへ、びっくりさせちゃったよね」
るのあちゃんが笑顔で私のほうを向いた。ゆのあくんは笑顔が少ないけれど、るのあちゃんは笑顔がたくさんだ。
「うちはるのあです。さっきも言ったけど、うち人脈だけは誰よりも広いから。何かあったら頼って!」
「ありがとう!でも、どこでそんなに広い人脈を…?」
ひみつー、と意地悪に笑うるのあちゃん。少しだけ、ゆのあくんに似ていた。
るのあちゃんは人と話すことが大好きで、自ら色々な場所へ飛び込んでいくような性格なんだとか。
そのせいでいつもゆのあくんは困っていて、私がここへ来ている間にも、何回かトラブルに巻き込まれそうになったらしい。
二人ともまだ幼いように見えて、なんだか可愛くて、一人っ子の私にとって妹ができたような感覚になった。