晨星、黎明に駆けて

「ごめん、もっと早くに来る予定だったのに…」
「ううん、いいよ。ほら座って、ちゃんと話を聞かせて」
ゆのあはいつも通りだが、やはりるのあに元気がない。ちゃんと話を聞いてあげたい、そう思った。
あたしたちはいつもの場所に座って、るのあが口を開くのを待った。
「…ごめんなさい。うち、やりすぎちゃった」
開口一番、発された言葉はそれだった。
まるでさながるのあの目の前にいるかのように、るのあの言葉にはしっかりと重みがあった。
隣でゆのあが心複雑な表情でるのあを見つめている。双子は一心同体、やはり姉にも責任があると感じているのだろう。
「こんなに大事にするつもりはなかったの。でも、さなちゃんまで傷つけちゃったかもしれない」
「…さなにはあたしから話してあるよ。るのあが反省してることもわかってる」
あたしはそう言って、ひかげくんたちにも伝えたように、さなの状況を話した。
話しているうちにるのあの表情はさらに暗いものへと変わっていき、ゆのあの表情もまた厳しいものへと変わっていった。
あたしもどんな話し方をすれば伝わりやすく、二人の反省の思いを受け止めているように聞こえるか考えていた。
二人はあたしよりも小さい。それほど年が離れていなくても、その差は大きいものである。感受性の豊かさがまず違い、そこから言葉の受け取り方にも違いが生じてくる。
あたしと同じ目線でとらえたらだめなのに、どのように話せばよいか、本当に難しい。
あの頃の自分がこんな思いをしていたらどうだったか、考えろ。あたし。
「どうしてここまで手の込んだことをしたの?」
そう言うと、真っ先に顔を上げたのはゆのあの方だった。あたしに目を合わせてから、すぐにるのあの方を向く。
るのあはゆっくりと口を開いた。
「何があっても、これ以上さなちゃんとニアが関わることを止めたかった。いくらみゆが大丈夫だって言っても、うちは信じられなくて」
そしてすぐに、ゆのあがるのあをかばう。
「るのあは実際、何度もニアに怖い思いをさせられたんだよ。そこはわかってあげてほしい」
…そうだよね。そんなこと、あたしだってわかってるよ。
自分にもそう言い聞かせるように、あたしは何度も頷いた。
るのあはさなのことを想って行動したんだ。それが悪い方向へ転じやすいものだった。
あたしだって、さなのことを想って、最初はここへ来ない選択をしてもらいたくて行動していた。
だからその気持はよくわかるし、どんな思いでるのあがニアと向き合ってきたかもわかる。
「でも、だからといってやっぱりここまでする必要なかったよね、ゆのあ。どうしよう、うち、どうやってさなちゃんに…」
「るのあ。一回考え方を変えようよ。そうじゃないと、ボクたちずっとこのままだよ」
あたしも二人にとってよりよい言葉を選んでいたので、しばらく沈黙が続いた。
どうしよう。せっかくるのあが胸の中を打ち明けてくれたのに、このまま夜が更けるわけにはいかない。
やはり、こういうとき、さなの声が聞きたい。
そうすれば、どうにかなる気がして。
そう思っていたとき、突然、沈黙を破る音が聞こえた。
あたしのスマホの通知音だった。
「きゃっ、な、何!?」
るのあが驚いて、ゆのあにしがみつく。
「ごめんごめん、さなの連絡に気づくために通知音最大にしてて…」
あたしは急いでスマホを開く。
さなからの、メッセージだった。
あたしのスマホを覗いたゆのあが言う。
「さなだ…。さなから、ようやく連絡が来た…!」
その声は嬉しそうで、あたしも思わず笑顔になった。
きっとあたしたちとさなの在り方を左右する、良くない報告なのだろうと予感する。
それでも、ずっと待っていたさなからの言葉に、みんなが嬉しくなっている。
これって、すごいことだよ。さな。
あたしはアプリを開いて、さなのメッセージをゆっくりと読み始めた。
『連絡が遅れてごめんね…!結論から言うと、学校でほしかげ界隈についてのルールができた。星霜ビル周辺は行ってはいけなくて、ほしかげ界隈の人とは話さないように、っていう決まりができてしまいました』
…やっぱり。学校全体でルールを定められてしまったら、それはもう仕方のないことだ。
『だから卒業までは会えないことになった。みんなにはすごく残念がってたって伝えておいてほしいです』
「そ、そんな…!うちのせいで…!」
あたしはるのあに声をかけた。
「るのあ。さながこれで終わる人じゃないって、わかってるでしょ」
さっきひかげくんに言われた言葉。るのあもその言葉にはっとさせられた。
『でも、それは生徒みんなの安全を守るため。ルールはできちゃったけど、今日私が話をしたクラスのみんな、先生、家族は、私たちの想いを理解してくれたんだよ。みんなでできることをしようって、思ってもらえたんだよ』
そっか。さな、頑張って話してくれてたんだね。
それを聞いたあたしは嬉しくて、心からさなを誇りに思った。
あたしの幼馴染は、本当に頑張り屋さんだ。
『だから私、みゆたちと会えない間に、自分の夢に向かう準備をしておく。卒業式が終わってすぐに、みんなのもとへ会いに行きたい。そのときまで自分なりに頑張りたい』
卒業してすぐに会いに来てくれるの?
会えなくなってしまうというのに、心の中はぽかぽかとあたたかい。
『突然で本当にごめん。でも私、頑張るから。今までの私たちに一旦戻って、次会うときは、絶対成長した私になってるから!』
さならしい言葉だ。
そうだね。成長した姿で、次に会うときは。
『学校の先生に、今日の夜十二時までなら連絡していいよって言われたの!だから今、返事をください!』
「…え、え!?」
最後の文章にせかされて、あたしは思わず慌ててしまった。
「どうしよ、え、なんて入れる…?」
ゆのあとるのあに聞いても、二人は読み入ってしまっているようで返事が返ってこない。
そんな、伝えたいことなんかたくさんあるけど、いきなりとなると…。
いや、考えてる暇なんてないよね。あたしも思うように伝えたいことを伝える。そう決めた。
『色んな人に想いを伝えてくれたんだね、ありがとう。学校のことはわかった。会えなくなるのは急すぎて、さすがに少し寂しい』
少しどころじゃなく寂しいけど、いつまでも子供っぽいことを言っていたらだめだと思い、自然と「少し」を打ち込んでいた。
『連絡もしちゃいけないってことだよね。…なんか急すぎて実感湧かない。とにかく、何度でもありがとうって言いたい。本当、頑張ってくれてありがとね』
きっと個人のスマホでやりとりする分には、学校にばれることなんてないだろう。
それでも、さなはそんなことはしない。それがさなの性格だということはわかっている。
それから、あたしたちはそんなことをしなくても途絶えない仲だってわかってる。
『ほしかげ界隈みんなで、さなのこと待ってるから。卒業式の日程だけ教えて。あたしいつもの場所で絶対待ってるよ』
すぐに既読がついた。
卒業式の日程を教えてもらい、すぐにカレンダーに入れる。
空っぽだったカレンダーに、赤色の大切な予定が加えられた。
『あたしたちも頑張る。絶対また会お』
それから元気のいい『うん!!!!!!』という返事が返ってきて、あたしたちのトーク画面は静画と化した。
あっという間だった。ゆのあとるのあもスマホ画面に吸い寄せられたまま、動かない。
別れのはずなのに、どうしてこんなに前向きになれるんだろう。さなのおかげだ。
「よーし、あたしたちも頑張ろ」
あたしはそう言って、大きな伸びをした。
声が夜空に響いていく。冷たい空気が肺に入り込んでくるけれど、そんなのすぐにあたたまる。
「…さなちゃん、すごい。心がぱって明るくなる」
るのあが笑顔でそう言った。
「その明るさのまま、あたしたちは進んでいけばいいんだよ」
自分でも驚くような、夜に言うには輝かしい言葉だった。
「普通だとか、普通じゃないとか、そんなのいい。自分らしく生きていこう」
空気をめいいっぱい吸って、一気に吐く。雑念が消えて、夜が自分色に染まっていく。
「後悔とか苦しみとか全部引きずって、あたしたちの思うがままに貫き通してやろーよ」
ゆのあとるのあの瞳が輝く。
その輝きを、ずっと宿していて。それがあなたたちの道を照らしていくから。
別れと出会いを繰り返す中で、あたしたちは奇跡を見つけた。
その奇跡は、次のその次の春、もう一度ひかりだす。
そこまで、どんな風に歩んでいこうか。
一等星の周りにある小さな星屑さえ、今のあたしには光って見える。
その輝きを、もう見失わない。
いいんだよ、どんな歩み方でも。
「これがあたしの人生だもん」

◇
電車に乗って、学校まで向かう。
参考書の文字はぐんぐん頭の中に入ってきて、学校までの道のりは一瞬になった。
みゆたちと会えなくなって数か月後、私は以前の生活に戻った。
しかし、そこには「充実」というものが加わった。
段々と形作られていく目標に向かって挑戦したり。友達と自信をもって進路の話ができるようになったり。
それだけではない。勉強も運動も、思い通りにいかないことだってあるけれど、これまで以上に頑張ろうと思えるようになった。
これからのことも、今のことも、全部がもっと楽しくなったのだ。
みゆたちに会えなくなって寂しいし、ほしかげ界隈のぬくもりはずっと恋しい。
思い出せばいくらでも出来事がフラッシュバックしてくるほど、喪失感が大きいのは確か。
しかし、私はだからこそ頑張れている。
あの日々を糧に今を頑張って、これからの日々に光を差せるようになれたら。
そんな気持ちを胸に、私は今日も学校へ行く。
卒業まで、待っていてほしい。笑顔であなたに会いたい。
「おはよう!」
教室に響く私の声は、光を纏い、透き通っていた。