「…私は、ほしかげ界隈で夢を見つけた」
私が学校で調べ物をしていたときに話しかけてくれた友達が、はっとした表情を浮かべる。
「同い年のはずなのに、私なんかよりみんなの方がよっぽど大人に見えた。こうなりたい、ってはっきり言えるのが、かっこよかった」
私はつい最近まで、具体的な将来の夢が見当たらないままだった。
みんなに取り残されているような感覚と、着実に大人へと近づいていく焦りがあった。
あと一年もすれば成人で、それなのに何もできない自分に悔しさを感じたときも多かった。
「でも、私もわかったよ。みんなの、目標に向かって頑張るやりがい」
これをやってみたい、と思ってからは、本当に一瞬だった。時間の流れがよりスピードを上げたような感じ。
周りではなく、私の中の揺らいでいた部分の霧が晴れた。
ほしかげ界隈に対する世の中の見方を変える。「普通」を目指す必要のない環境をつくる。
難しいことでも、向き合ってみたいと思えるものができたのだ。
そんな難しいものに通ずるような学びを大学で積み上げて、自分なりにアクションを起こせる将来にしたい。
私は深呼吸をして、一番伝えたいことを、みんなに言った。
「頑張ることに理由なんていらない。『普通』の人生を目指すんじゃなくて、『自分』の人生を見つけてほしい」
ずっと心に秘めていた想いが、そっとみんなに届けられた気がした。
みんなの眼差しは、優しく、勇敢なものになっていた。
「普通」という言葉にいくら惑わされ、苦しめられてきたかは人それぞれ。
私のように、一人で苦しんできたかもしれない。集団で苦しんできたかもしれない。
ただ一つ共通することは、絶対に自分を見失わないでほしいということだ。
常識という名で押し付けられた価値観の違いは、なくそうとしなくていい。
どれだけ「普通」を考えさせられようとも、「自分」さえ見失わなければ、もう光は見えている。
その光を大切に、明るい方へ進んでみようとするのがほしかげ界隈だ。
先のことなんかわからない。それでも、「自分」さえ見つけられたらあとは進むのみだ。
隣にいてくれる、あたたかな誰かと一緒に。
「それはほしかげ界隈の人たちだけじゃない。みんなもだよ」
私はゆっくりと、みんなの一人ひとりの心に触れるように言った。
私の想い、届け。一人でも多くの人に、届け。
ほしかげ界隈のみんなの想いも背負って、私はここに立っているのだから。
もう迷いなんかない。後悔は腐るほどあるし、自分への悔しさもぬぐえないまま、ずっとがむしゃらに生きてきた。
それが私。「自分」なのだ。
葛藤も悔しさも、全部巻き込んでバネにしてしまえ。常識や普通という名の風を切り裂いて、どこまでも駆けてゆけ。
強い想いは、夢は、感情は、人をここまでも動かす。
一番大きな原動力だ。
「ほしかげ界隈のことについて、少しでも考えていただけたら嬉しいです。私、こんなに喋っちゃってごめんなさい…」
私は頭を下げて、椅子に座った。
その途端、舞台からおりて一人の観客になったような感情の起伏のギャップが生じた。
先程まで話していた自分をこれでもかと俯瞰して見ることができてしまう。さっきまで私は、まるで別人のようだったのでは…?
さすがに格好つけすぎたかもしれない。私、ちゃんと言いたいこと言えてたよね?
なんだか恥ずかしさがこみ上げてきて、最後まで凛と話せなかった自分にも恥ずかしさが募る。
教室の静けさがチクチクと胸を刺す。あれ、これって私、みんなに引かれてしまったんじゃ。
意味もなく教科書やノートを机から出し入れして、ぐるぐる回る思考を止めようとするが、上手くいかない。
授業の終わりを告げるチャイムが鳴った、そのときだった。
「…すげー、すげーよ藤本さん!!」
男の子が立ち上がり、そう言って拍手を始めたのだ。
それに続いてみんなも拍手を始めて、思い思いに感じたことを口にしだした。
「さなが覚醒した!藤本さなが覚醒したんだ!!」
「めっちゃかっこよかったよ!」
「あれって本当にさなちゃんだったの!?」
「そこら辺の男子より全然かっこよかった!」
それは言うなよ!、という男の子の声が聞こえて、教室全体が笑いに包まれた。
…みんな、わかってくれたっていうことなのかな?
私は上手く話せている自信もなかった。普段はあまり人前に出るタイプじゃないし、何より先程までは自分の思うがままに話していたものだから余計に自分の話がわからなかった。
それでも、みんなから笑顔で称えられるのは嬉しくて、私も自然と笑顔になっていた。
「俺あんなこと言ってごめん。完全にニュース鵜吞みにしてた」
「私も、ほしかげ界隈がそんな集団だなんて思ってなかったよ。さなちゃんありがとう」
「これが本当だったら、もっと色んな人たちに知られるべきだよな」
「私たちってずっと誤解してたんだね」
そんなみんなの言葉から、本当に伝わったんだ、という実感が湧いた。
また一つ、自信が増えた気がした。
「無理に関わろうとする必要はないよ…!実際、星霜ビルの周りは治安がよくないから」
そう言う私を見て、それもそうか、とみんなが言い出す。
みんなが考えを深める種をまけたのかもしれない。それに毎日水をやって、卒業までにこつこつ育てていけたら、なんて良いことだろう。
「でも、みんなが少しでも興味を持ってくれて嬉しい。一緒に何かできることはないか考えられたらいいなって思います。ありがとう」
そう頭を下げた私に、「すごい!」という言葉と共にまた拍手があがった。
そんなに大丈夫だよ、と照れ隠しに言っても、拍手の音が止まることはなかった。
また、私のことを信じてくれた友達が、話してくれてありがとうと言ってくれたとき。
胸いっぱいに感謝の気持ちがこみ上げてきて、言葉にできなかった。その分、大きく頷いた。
みんなにほしかげ界隈の本当の姿を認めてもらうことができた気がして、心の中に一輪の花が咲いたような感じがした。
昼休みになり、先生に呼び出された。ほしかげ界隈への対応が決まったという。
なんと呼び出された場所は校長室。何かまた大きなトラブルが起こったのかと心配になったが、そうではないようだ。
重厚感のある腰掛けに座り、校長先生に挨拶をする。少し話をしてから、本題に移った。
校長先生が私をじっと見つめる。厳しさと優しさを兼ね備えた女性で、見られると自然と背筋が伸びた。
「本日より、白妙学園の全校生徒の星霜ビルへの立ち入り禁止、ほしかげ界隈を名乗る人々との接触禁止を校則とすることになりました」
私はどう返事をしたらよいかわからず、俯いてしまった。
クラスのみんなの見方が変わったからといって、学校の動きまでもを変えることはできなかった。
それはそうだよね、と自分に言い聞かせるが、もやもやとした感情が胸にはびこる。
やはり、私はしばらくの間みゆたちと会うことはできないのだ。
せっかく、いや、ようやく会えたのに。自分の突き進みたい道が見えてきたのに。行く先を阻まれるだなんて。
これからどうやって関わればよいのか、見当がつかない。
黙り込んでしまった私に、校長先生が話しかけた。
「…あなたがどのような目的でほしかげ界隈と関わっていたのかは、知っていますよ」
私は驚いた。校長先生は何ともないように、コーヒーを一口飲んだ。
「ど、どうしてですか」
「あなたの担任の先生が、あなたの想いをよくわかっていたのです」
校長先生の目線の先には、私の担任の先生がいた。俺は知らないよ、という風に首をかしげる。
先生、私のことをわかってくれていたんだ。
最初だって、写真に写り込んでいるのが私であると信じたくないように見てとれた。
私のことを信頼して、私の想いまで理解して、それを伝えてくれていたとは考えていなかった。
大人は、私たちのような年代の意見をきっぱり切断するのではない。理不尽に見えても、たくさん考えてくれているのかもしれない。
ありがとうございました、と言いたかったけれど、今の私には情報を飲み込むことしかできなかった。
「私たち教師は、あなたたち生徒の安全を第一に考えます。学校への影響もです。それらを踏まえた上で、今回の結果となりました」
それを聞いた私は、悔しくも納得した。
いくらほしかげ界隈が安全だとしても、そこにたどり着くまでの道のりやその周辺には、多くの危険が潜んでいる。
私も初めてあそこに行ったときは、怖い男の人とトラブルになりそうになった。
それをみゆが助けてくれたのが始まりではあったけれど。
そんな危険があるとわかっているような場所に生徒が行くことは、確かに許されないだろう。
しかし、それがルールとなってしまい、よりほしかげ界隈との壁が厚くなってしまったように感じる。
私が学校で調べ物をしていたときに話しかけてくれた友達が、はっとした表情を浮かべる。
「同い年のはずなのに、私なんかよりみんなの方がよっぽど大人に見えた。こうなりたい、ってはっきり言えるのが、かっこよかった」
私はつい最近まで、具体的な将来の夢が見当たらないままだった。
みんなに取り残されているような感覚と、着実に大人へと近づいていく焦りがあった。
あと一年もすれば成人で、それなのに何もできない自分に悔しさを感じたときも多かった。
「でも、私もわかったよ。みんなの、目標に向かって頑張るやりがい」
これをやってみたい、と思ってからは、本当に一瞬だった。時間の流れがよりスピードを上げたような感じ。
周りではなく、私の中の揺らいでいた部分の霧が晴れた。
ほしかげ界隈に対する世の中の見方を変える。「普通」を目指す必要のない環境をつくる。
難しいことでも、向き合ってみたいと思えるものができたのだ。
そんな難しいものに通ずるような学びを大学で積み上げて、自分なりにアクションを起こせる将来にしたい。
私は深呼吸をして、一番伝えたいことを、みんなに言った。
「頑張ることに理由なんていらない。『普通』の人生を目指すんじゃなくて、『自分』の人生を見つけてほしい」
ずっと心に秘めていた想いが、そっとみんなに届けられた気がした。
みんなの眼差しは、優しく、勇敢なものになっていた。
「普通」という言葉にいくら惑わされ、苦しめられてきたかは人それぞれ。
私のように、一人で苦しんできたかもしれない。集団で苦しんできたかもしれない。
ただ一つ共通することは、絶対に自分を見失わないでほしいということだ。
常識という名で押し付けられた価値観の違いは、なくそうとしなくていい。
どれだけ「普通」を考えさせられようとも、「自分」さえ見失わなければ、もう光は見えている。
その光を大切に、明るい方へ進んでみようとするのがほしかげ界隈だ。
先のことなんかわからない。それでも、「自分」さえ見つけられたらあとは進むのみだ。
隣にいてくれる、あたたかな誰かと一緒に。
「それはほしかげ界隈の人たちだけじゃない。みんなもだよ」
私はゆっくりと、みんなの一人ひとりの心に触れるように言った。
私の想い、届け。一人でも多くの人に、届け。
ほしかげ界隈のみんなの想いも背負って、私はここに立っているのだから。
もう迷いなんかない。後悔は腐るほどあるし、自分への悔しさもぬぐえないまま、ずっとがむしゃらに生きてきた。
それが私。「自分」なのだ。
葛藤も悔しさも、全部巻き込んでバネにしてしまえ。常識や普通という名の風を切り裂いて、どこまでも駆けてゆけ。
強い想いは、夢は、感情は、人をここまでも動かす。
一番大きな原動力だ。
「ほしかげ界隈のことについて、少しでも考えていただけたら嬉しいです。私、こんなに喋っちゃってごめんなさい…」
私は頭を下げて、椅子に座った。
その途端、舞台からおりて一人の観客になったような感情の起伏のギャップが生じた。
先程まで話していた自分をこれでもかと俯瞰して見ることができてしまう。さっきまで私は、まるで別人のようだったのでは…?
さすがに格好つけすぎたかもしれない。私、ちゃんと言いたいこと言えてたよね?
なんだか恥ずかしさがこみ上げてきて、最後まで凛と話せなかった自分にも恥ずかしさが募る。
教室の静けさがチクチクと胸を刺す。あれ、これって私、みんなに引かれてしまったんじゃ。
意味もなく教科書やノートを机から出し入れして、ぐるぐる回る思考を止めようとするが、上手くいかない。
授業の終わりを告げるチャイムが鳴った、そのときだった。
「…すげー、すげーよ藤本さん!!」
男の子が立ち上がり、そう言って拍手を始めたのだ。
それに続いてみんなも拍手を始めて、思い思いに感じたことを口にしだした。
「さなが覚醒した!藤本さなが覚醒したんだ!!」
「めっちゃかっこよかったよ!」
「あれって本当にさなちゃんだったの!?」
「そこら辺の男子より全然かっこよかった!」
それは言うなよ!、という男の子の声が聞こえて、教室全体が笑いに包まれた。
…みんな、わかってくれたっていうことなのかな?
私は上手く話せている自信もなかった。普段はあまり人前に出るタイプじゃないし、何より先程までは自分の思うがままに話していたものだから余計に自分の話がわからなかった。
それでも、みんなから笑顔で称えられるのは嬉しくて、私も自然と笑顔になっていた。
「俺あんなこと言ってごめん。完全にニュース鵜吞みにしてた」
「私も、ほしかげ界隈がそんな集団だなんて思ってなかったよ。さなちゃんありがとう」
「これが本当だったら、もっと色んな人たちに知られるべきだよな」
「私たちってずっと誤解してたんだね」
そんなみんなの言葉から、本当に伝わったんだ、という実感が湧いた。
また一つ、自信が増えた気がした。
「無理に関わろうとする必要はないよ…!実際、星霜ビルの周りは治安がよくないから」
そう言う私を見て、それもそうか、とみんなが言い出す。
みんなが考えを深める種をまけたのかもしれない。それに毎日水をやって、卒業までにこつこつ育てていけたら、なんて良いことだろう。
「でも、みんなが少しでも興味を持ってくれて嬉しい。一緒に何かできることはないか考えられたらいいなって思います。ありがとう」
そう頭を下げた私に、「すごい!」という言葉と共にまた拍手があがった。
そんなに大丈夫だよ、と照れ隠しに言っても、拍手の音が止まることはなかった。
また、私のことを信じてくれた友達が、話してくれてありがとうと言ってくれたとき。
胸いっぱいに感謝の気持ちがこみ上げてきて、言葉にできなかった。その分、大きく頷いた。
みんなにほしかげ界隈の本当の姿を認めてもらうことができた気がして、心の中に一輪の花が咲いたような感じがした。
昼休みになり、先生に呼び出された。ほしかげ界隈への対応が決まったという。
なんと呼び出された場所は校長室。何かまた大きなトラブルが起こったのかと心配になったが、そうではないようだ。
重厚感のある腰掛けに座り、校長先生に挨拶をする。少し話をしてから、本題に移った。
校長先生が私をじっと見つめる。厳しさと優しさを兼ね備えた女性で、見られると自然と背筋が伸びた。
「本日より、白妙学園の全校生徒の星霜ビルへの立ち入り禁止、ほしかげ界隈を名乗る人々との接触禁止を校則とすることになりました」
私はどう返事をしたらよいかわからず、俯いてしまった。
クラスのみんなの見方が変わったからといって、学校の動きまでもを変えることはできなかった。
それはそうだよね、と自分に言い聞かせるが、もやもやとした感情が胸にはびこる。
やはり、私はしばらくの間みゆたちと会うことはできないのだ。
せっかく、いや、ようやく会えたのに。自分の突き進みたい道が見えてきたのに。行く先を阻まれるだなんて。
これからどうやって関わればよいのか、見当がつかない。
黙り込んでしまった私に、校長先生が話しかけた。
「…あなたがどのような目的でほしかげ界隈と関わっていたのかは、知っていますよ」
私は驚いた。校長先生は何ともないように、コーヒーを一口飲んだ。
「ど、どうしてですか」
「あなたの担任の先生が、あなたの想いをよくわかっていたのです」
校長先生の目線の先には、私の担任の先生がいた。俺は知らないよ、という風に首をかしげる。
先生、私のことをわかってくれていたんだ。
最初だって、写真に写り込んでいるのが私であると信じたくないように見てとれた。
私のことを信頼して、私の想いまで理解して、それを伝えてくれていたとは考えていなかった。
大人は、私たちのような年代の意見をきっぱり切断するのではない。理不尽に見えても、たくさん考えてくれているのかもしれない。
ありがとうございました、と言いたかったけれど、今の私には情報を飲み込むことしかできなかった。
「私たち教師は、あなたたち生徒の安全を第一に考えます。学校への影響もです。それらを踏まえた上で、今回の結果となりました」
それを聞いた私は、悔しくも納得した。
いくらほしかげ界隈が安全だとしても、そこにたどり着くまでの道のりやその周辺には、多くの危険が潜んでいる。
私も初めてあそこに行ったときは、怖い男の人とトラブルになりそうになった。
それをみゆが助けてくれたのが始まりではあったけれど。
そんな危険があるとわかっているような場所に生徒が行くことは、確かに許されないだろう。
しかし、それがルールとなってしまい、よりほしかげ界隈との壁が厚くなってしまったように感じる。



