昨日と同じように、いつもよりも一駅手前で電車を降りる。
昨日よりはまだ明るいが、みゆらしき女の子は来ているのだろうか。
少し駆け足で、私は星霜ビルの広場に向かった。
手前まで来て、一度様子をうかがってみる。
「…いた」
気がつけば、そう声に出していた。
女の子はまだこちらに気がついておらず、仲間と話しているようだ。笑ってはいない。
声が聞こえる。みゆそっくりだったが、少しだけ低く感じた。
…もしかして、話題になっているのは、昨日の私のこと?
こうなったら、突撃するしかない。こういうときの行動力だけは、誰にも負けない自信がある。
私は、もう昨日感じた毒々しいにおいのことなんか忘れて、女の子のもとへ走っていった。
「あ、あの…!」
女の子は、また目を見開く。
「…昨日の子?」
また、女の子の声色が変化した。冷たくて、一瞬、ぞわりと寒気がする。
それでもいい。諦めるな、私。
「昨日はありがとうございました。どうしてもお礼を言いたくて」
みゆのような女の子が、私の話を聞いてくれている。
そう思ったのも、つかの間だった。
「…あのさ、もう二度と来ないでって、言わなかったっけ」
女の子からは、鋭い視線と共に、嫌いだという気持ちがダイレクトに伝わってくる。
「すみません、でも、一つだけどうしても聞きたいことが…」
女の子が俯く。その動作だけで、私の言葉が止まってしまった。
これ以上話しかけたら、まずい気がしたから。
女の子の顔が上がる。
昨日の男の人に向かっての表情とは比べものにならないくらい、怒った顔だった。
「来ないでって、言ってんだよ」
怖かった。身なりも声もみゆにそっくりなのに、態度が一変していて。
明らかに怪我をするとわかりながらも、鋭い刃物に自ら手を伸ばしているかのような私の行動に、無理なことなのではないかという不安がよぎる。
それでも、ここで逃げたらだめだ。
「もうここには来ません。だから、一つだけ、最後に聞かせてほしいんです」
女の子は、変わらぬ目つきで私を見つめているけれど。
私はもう、こうするしかないんだ。
「あなたの名前が、知りたいんです」
また、周囲の視線が私に集中している気がした。
女の子は目を伏せて、
「知って何かあんの」
と呟いた。そして、ため息を吐いて続ける。
「どうせ訊いたって意味ないよ。こんな所で本名言えるわけあると思う?」
確かに、と、納得してしまう自分がいた。ほしかげ界隈が最も個人情報にデリケートな集団だと、わかっていたはずだった。
どうしよう。何も言い返せなければ、後は女の子の手の上で転がされるのみだ。
「何のつもりか知らないけど、昨日のうちにいい子に帰っておけばよかったんじゃない?」
目が合う。もう、女の子は自ら目をそらすなんてことはしない。
相手の心までもを見透かすような眼差し。じっと見られて動揺してしまったら、そこで私の負けだ。
「次誰かに危ないことされたって、助けてあげないよ」
言葉を返すことができない。自分に対して、どうしようもない悔しさが募っていく。
「自己責任なんて言葉、高校生にもなればわかるでしょ。…だったら今のうちに帰って」
「偽名でも何でもいいんです、だから」
「もう来ないで」
女の子は、静かに言った。
…それなら、もういいよ。私はいい子になる。今日はここで帰る。
しかし、私はあなたのことを少しでも知ってしまった。本当に話を聞いてくれないわけじゃないと、わかった。
そうなれば、明日だって明後日だって、あなたがみゆだとわかって連れ戻せるまで、ずっと。
ずっとここに来る。
「…わかりました」
本当は全然、わかってなんかいない。
絶対に、みゆを連れ戻す。それまでどう言われようと、私はここに来る。
広場を抜けた直後だった。
はっきりと、聞こえた言葉があった。
「みゆ、あの人誰なの?本当に知り合いじゃないの?」
可愛らしい声。そのすぐ後に、みゆに似た女の子の声がした。
本当にあの女の子がみゆであると、確信を持ってしまった。
「私が、助けないと」
私も気づかないうちに、そう口に出していた。
夜空に浮かぶ星なんて、光に潰されて見えやしなかった。
昨日よりはまだ明るいが、みゆらしき女の子は来ているのだろうか。
少し駆け足で、私は星霜ビルの広場に向かった。
手前まで来て、一度様子をうかがってみる。
「…いた」
気がつけば、そう声に出していた。
女の子はまだこちらに気がついておらず、仲間と話しているようだ。笑ってはいない。
声が聞こえる。みゆそっくりだったが、少しだけ低く感じた。
…もしかして、話題になっているのは、昨日の私のこと?
こうなったら、突撃するしかない。こういうときの行動力だけは、誰にも負けない自信がある。
私は、もう昨日感じた毒々しいにおいのことなんか忘れて、女の子のもとへ走っていった。
「あ、あの…!」
女の子は、また目を見開く。
「…昨日の子?」
また、女の子の声色が変化した。冷たくて、一瞬、ぞわりと寒気がする。
それでもいい。諦めるな、私。
「昨日はありがとうございました。どうしてもお礼を言いたくて」
みゆのような女の子が、私の話を聞いてくれている。
そう思ったのも、つかの間だった。
「…あのさ、もう二度と来ないでって、言わなかったっけ」
女の子からは、鋭い視線と共に、嫌いだという気持ちがダイレクトに伝わってくる。
「すみません、でも、一つだけどうしても聞きたいことが…」
女の子が俯く。その動作だけで、私の言葉が止まってしまった。
これ以上話しかけたら、まずい気がしたから。
女の子の顔が上がる。
昨日の男の人に向かっての表情とは比べものにならないくらい、怒った顔だった。
「来ないでって、言ってんだよ」
怖かった。身なりも声もみゆにそっくりなのに、態度が一変していて。
明らかに怪我をするとわかりながらも、鋭い刃物に自ら手を伸ばしているかのような私の行動に、無理なことなのではないかという不安がよぎる。
それでも、ここで逃げたらだめだ。
「もうここには来ません。だから、一つだけ、最後に聞かせてほしいんです」
女の子は、変わらぬ目つきで私を見つめているけれど。
私はもう、こうするしかないんだ。
「あなたの名前が、知りたいんです」
また、周囲の視線が私に集中している気がした。
女の子は目を伏せて、
「知って何かあんの」
と呟いた。そして、ため息を吐いて続ける。
「どうせ訊いたって意味ないよ。こんな所で本名言えるわけあると思う?」
確かに、と、納得してしまう自分がいた。ほしかげ界隈が最も個人情報にデリケートな集団だと、わかっていたはずだった。
どうしよう。何も言い返せなければ、後は女の子の手の上で転がされるのみだ。
「何のつもりか知らないけど、昨日のうちにいい子に帰っておけばよかったんじゃない?」
目が合う。もう、女の子は自ら目をそらすなんてことはしない。
相手の心までもを見透かすような眼差し。じっと見られて動揺してしまったら、そこで私の負けだ。
「次誰かに危ないことされたって、助けてあげないよ」
言葉を返すことができない。自分に対して、どうしようもない悔しさが募っていく。
「自己責任なんて言葉、高校生にもなればわかるでしょ。…だったら今のうちに帰って」
「偽名でも何でもいいんです、だから」
「もう来ないで」
女の子は、静かに言った。
…それなら、もういいよ。私はいい子になる。今日はここで帰る。
しかし、私はあなたのことを少しでも知ってしまった。本当に話を聞いてくれないわけじゃないと、わかった。
そうなれば、明日だって明後日だって、あなたがみゆだとわかって連れ戻せるまで、ずっと。
ずっとここに来る。
「…わかりました」
本当は全然、わかってなんかいない。
絶対に、みゆを連れ戻す。それまでどう言われようと、私はここに来る。
広場を抜けた直後だった。
はっきりと、聞こえた言葉があった。
「みゆ、あの人誰なの?本当に知り合いじゃないの?」
可愛らしい声。そのすぐ後に、みゆに似た女の子の声がした。
本当にあの女の子がみゆであると、確信を持ってしまった。
「私が、助けないと」
私も気づかないうちに、そう口に出していた。
夜空に浮かぶ星なんて、光に潰されて見えやしなかった。



