翌朝。すっきりしない気持ちを抱えつつも、いつも通り電車に乗って、学校へ向かった。
教室へ着いた瞬間、普段と空気が違うことを感じた。
そして、クラス全体の視線が、私に向いているような。
なんだろう。今までこんなことなかったのに、途端にここに居づらい。
毎朝挨拶してくれる友達が、教室の端でスマホを見て固まっている。
噓、まさか。そんなわけないよね。
嫌な予感がして、私は制服のスカートをぎゅっと握る。手汗がにじむ。
クラスの女の子たちが、まとまって私に話しかけてくる。
「おはよう。何かあったの?」
私は友達から発されるであろう言葉から逃げたくて、つい早口でそう言った。
みんなは顔を見合わせて、言うべきか言うまいべきか考えているようだった。
しかし、一人の女子がこう口を開いた。
「…これって、さなじゃない、よね?」
スマホ画面を向けられる。
信じたくなかった。
昨日の投稿が、みんなに広まっているではないか。
どうして?なんで私ってわかったの?短いポニーテールって、私くらいしかいないから?それとも特進生が付けてるバッジ?
これでもし、ここに写っているのが私だと知られたら、私は一体どうしたらよいのだろう。
今ここで初めてそのことを言えば、驚く人がほとんどだろうし、受け入れてもらえないかもしれない。
後で改めて言えば、きっと。
「何?この写真…。多分私じゃないと思うよ」
これが、精一杯だった。
そうだよ。本当に私だとは限らない。違う人かもしれないし、そんなことわからない。
そんな馬鹿みたいな理由を考えて、私はそう言った。
こういう場で、なんで私は言えないのかな。本当のことが。
どうしてそんなに恐れてるのかな。
みんながほっとした顔つきに戻るのを見て、私は自分への悔やみが募っていくばかりだった。
私、何にそんなとらわれてるんだろう。
「よかった~…!これ、ほしかげ界隈のところで撮られたんだって」
「さなだったらどうしたのかと思って、本当びっくりした」
「やっぱ藤本さんじゃなかったじゃん!誰だよこれ藤本さんだって言い出したやつ」
「さながそんなところ行くわけないよね」
そうだよー、と私は笑顔で言った。
これ以上、何かを言われたくもなかったし、何かを言いたくもなかった。
噓ついて。みんなの心配させて。そんなみんなの言葉に、嫌な気持ちを抱いて。
私って、いつも何に必死になってるの?
全部私がちゃんと話せばいいことなのに。ちゃんと話せば、よりよくなるだけのことなのに。
いつになったら、私はその勇気が出せるのだろうか。
気がつけば、朝のホームルームが始まっていた。
先生の話が右から左へ流れていって、ほとんど聞き取れなかった。
「ちょっと、藤本。大丈夫か?」
「あっ、はい…。すみません」
突然先生にそう言われ、私は慌てて先生の方を向いた。私は何度か先生に名前を呼ばれていたらしい。
先生に名指しで呼ばれるのは珍しくて、ここで初めて、夢から醒めたような感覚になった。
「このホームルームが終わったら、進路指導室に来てください。話があります」
またしてもみんなの視線が私に集まる。
あの事かな、と、みんなの小さな話し声が聞こえる。
あっという間にホームルームは終わり、私は一人教室を出て、進路指導室へと向かった。
心の中のざわめきが後を絶たない。
少しすると先生が部屋に入ってきた。その手には、様々な資料が抱えられていた。
無駄な抵抗だとわかりながらも、昨日の投稿のことではないことを願う。
「突然ごめんな。ちょっと見てもらいたい写真があってな」
先生が、これ、とタブレット端末をこちらに向ける。
ああ、やっぱり。
「昨日、学校にこんな画像と文章が送られてきた。最初はいたずらか何かだと思ってたけど、職員会議の話題になったんだ。…ここに映り込んでる生徒が藤本に似てるんだよ」
呼吸が荒くなっていく。どうしよう。焦りなのか不安なのか、気持ちがドタバタ暴れて、落ち着かない。
学校に送られてきた?この画像は、投稿されていただけではなかったのか?
先生が私の写真の隣に文章が印刷された紙を置く。
『白妙学園の先生方へ 星霜ビル周辺で、こんな生徒を見かけました。
白妙学園は都内の中でも落ち着いた雰囲気でとても良い学校だと思っていたので、このようなことがあると心配です。
生徒への指導をお願いします。 地域住民より』
…地域住民?
星霜ビル周辺のほとんどの建物は何らかの店舗で、住宅があるのは少し離れた場所だ。
ということは、どこかの店員が?
しかし、あんな投稿の仕方はできないはずだ。赤の他人ならば。
…本当に、これを撮影したのは、私の赤の他人なのだろうか?
脳内の、情報という名の歯車がカチカチと動く。
「まさか藤本が、そんなわけないと先生も思ってる。でもな、一応話を聞こうってことになったから」
ここに写ってるの、藤本じゃないよな。
その先生の言葉に、私は何と返せば良いかわからなかった。
教室へ着いた瞬間、普段と空気が違うことを感じた。
そして、クラス全体の視線が、私に向いているような。
なんだろう。今までこんなことなかったのに、途端にここに居づらい。
毎朝挨拶してくれる友達が、教室の端でスマホを見て固まっている。
噓、まさか。そんなわけないよね。
嫌な予感がして、私は制服のスカートをぎゅっと握る。手汗がにじむ。
クラスの女の子たちが、まとまって私に話しかけてくる。
「おはよう。何かあったの?」
私は友達から発されるであろう言葉から逃げたくて、つい早口でそう言った。
みんなは顔を見合わせて、言うべきか言うまいべきか考えているようだった。
しかし、一人の女子がこう口を開いた。
「…これって、さなじゃない、よね?」
スマホ画面を向けられる。
信じたくなかった。
昨日の投稿が、みんなに広まっているではないか。
どうして?なんで私ってわかったの?短いポニーテールって、私くらいしかいないから?それとも特進生が付けてるバッジ?
これでもし、ここに写っているのが私だと知られたら、私は一体どうしたらよいのだろう。
今ここで初めてそのことを言えば、驚く人がほとんどだろうし、受け入れてもらえないかもしれない。
後で改めて言えば、きっと。
「何?この写真…。多分私じゃないと思うよ」
これが、精一杯だった。
そうだよ。本当に私だとは限らない。違う人かもしれないし、そんなことわからない。
そんな馬鹿みたいな理由を考えて、私はそう言った。
こういう場で、なんで私は言えないのかな。本当のことが。
どうしてそんなに恐れてるのかな。
みんながほっとした顔つきに戻るのを見て、私は自分への悔やみが募っていくばかりだった。
私、何にそんなとらわれてるんだろう。
「よかった~…!これ、ほしかげ界隈のところで撮られたんだって」
「さなだったらどうしたのかと思って、本当びっくりした」
「やっぱ藤本さんじゃなかったじゃん!誰だよこれ藤本さんだって言い出したやつ」
「さながそんなところ行くわけないよね」
そうだよー、と私は笑顔で言った。
これ以上、何かを言われたくもなかったし、何かを言いたくもなかった。
噓ついて。みんなの心配させて。そんなみんなの言葉に、嫌な気持ちを抱いて。
私って、いつも何に必死になってるの?
全部私がちゃんと話せばいいことなのに。ちゃんと話せば、よりよくなるだけのことなのに。
いつになったら、私はその勇気が出せるのだろうか。
気がつけば、朝のホームルームが始まっていた。
先生の話が右から左へ流れていって、ほとんど聞き取れなかった。
「ちょっと、藤本。大丈夫か?」
「あっ、はい…。すみません」
突然先生にそう言われ、私は慌てて先生の方を向いた。私は何度か先生に名前を呼ばれていたらしい。
先生に名指しで呼ばれるのは珍しくて、ここで初めて、夢から醒めたような感覚になった。
「このホームルームが終わったら、進路指導室に来てください。話があります」
またしてもみんなの視線が私に集まる。
あの事かな、と、みんなの小さな話し声が聞こえる。
あっという間にホームルームは終わり、私は一人教室を出て、進路指導室へと向かった。
心の中のざわめきが後を絶たない。
少しすると先生が部屋に入ってきた。その手には、様々な資料が抱えられていた。
無駄な抵抗だとわかりながらも、昨日の投稿のことではないことを願う。
「突然ごめんな。ちょっと見てもらいたい写真があってな」
先生が、これ、とタブレット端末をこちらに向ける。
ああ、やっぱり。
「昨日、学校にこんな画像と文章が送られてきた。最初はいたずらか何かだと思ってたけど、職員会議の話題になったんだ。…ここに映り込んでる生徒が藤本に似てるんだよ」
呼吸が荒くなっていく。どうしよう。焦りなのか不安なのか、気持ちがドタバタ暴れて、落ち着かない。
学校に送られてきた?この画像は、投稿されていただけではなかったのか?
先生が私の写真の隣に文章が印刷された紙を置く。
『白妙学園の先生方へ 星霜ビル周辺で、こんな生徒を見かけました。
白妙学園は都内の中でも落ち着いた雰囲気でとても良い学校だと思っていたので、このようなことがあると心配です。
生徒への指導をお願いします。 地域住民より』
…地域住民?
星霜ビル周辺のほとんどの建物は何らかの店舗で、住宅があるのは少し離れた場所だ。
ということは、どこかの店員が?
しかし、あんな投稿の仕方はできないはずだ。赤の他人ならば。
…本当に、これを撮影したのは、私の赤の他人なのだろうか?
脳内の、情報という名の歯車がカチカチと動く。
「まさか藤本が、そんなわけないと先生も思ってる。でもな、一応話を聞こうってことになったから」
ここに写ってるの、藤本じゃないよな。
その先生の言葉に、私は何と返せば良いかわからなかった。



